象牙色の嘲笑 [海外の作家 ま行]
<裏表紙あらすじ>
私立探偵のリュウ・アーチャーは怪しげな人物からの依頼で、失踪した女を捜し始めた。ほどなく、その女が喉を切り裂かれて殺されているのを発見する。現場には富豪の青年が消息を絶ったことを報じる新聞記事が残されていた。二つの事件に関連はあるのか? 全容を解明すべく立ち上がったアーチャーの行き先には恐ろしい暗黒が待ち受けていた……。錯綜する人間の愛憎から浮かび上がる衝撃の結末。巨匠の初期代表作、新訳版。
ロス・マクドナルドの2016年に出た新訳です。
リュウ・アーチャーものの第4作。
(創元推理文庫では、表記はリュー・アーチャーです。)
ずっとこの作品のタイトル、「象牙色の嘲笑」ではなく、象牙色の微笑だと思っていたんですよね。なぜだろう?
象牙色の微笑にせよ、象牙色の嘲笑にせよ、どういう意味なんだろな、と思うところですが、作品の中では、117ページに出て来ます。
「懐中電灯の光が死の象牙色の嘲笑を照らし出した」
これは、リュウ・アーチャーが医者の家に忍び込んで家探しをしている最中に見つけた骸骨の描写です。
なかなかいい感じのタイトルですよね。(間違って記憶していた人間が言うセリフではないかも、ですが)
読み終わって、すごく複雑なプロットだったことに驚きました。すごく入り組んでいる。
ロス・マクドナルドはハードボイルド派に属する作家ですが、しっかり謎解きミステリを成し遂げようとしていたんですね。
そして、怪しげな依頼人ユーナに始まって、捜索の対象となるルーシー、その恋人のアレックス、その母親アナ、”象牙色の嘲笑”を保有する医者ベニングにその妻ベス、行方不明の金持ちチャーリーに、その母親で名士のミセス・シングルトン、ミセス・シングルトンに仕えるシルヴィアと登場人物がいずれも印象的に描かれています。
そんなに分厚い本ではないのに(本文は375ページまで)、ずっしりとした読みごたえを感じるのはそのためでしょう。
興味深かったのは、捜索の対象で被害者のルーシーよりも、犯人の方がしっかり描かれていること。
被害者にもっともっと力点を置くと、もっともっと現代っぽくなったのかもしれませんね。
このあたりも、ちゃんと謎解きをやっておこうという意志表明だったのかも。
トーンが全体的に暗いのが気になりますが、ロス・マクドナルドのほかの諸作も読みたいな、と思いました。
じゃんじゃん復刊をお願いします。
<蛇足1>
「日本風の赤いパジャマを着た彼女は女というより、性別のない小鬼が地獄で年老いたような感じだった」(91ページ)
なんだかひどい言われ様ですが、日本風の赤いパジャマって、どんなのなんでしょうね?
<蛇足2>
「奥さんはイゼベルだったんですよ」(213ページ)
偶然ではありますが、直前に読んでいたのが「ジェゼベルの死」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)だったので、おやっと思いました。
原題:The Ivory Fein
作者:Ross McDonald
刊行:1952年
翻訳:小鷹信光・松下祥子
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