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生ける屍の死 [日本の作家 山口雅也]


生ける屍の死(上) (光文社文庫)生ける屍の死(下) (光文社文庫)

生ける屍の死(上) (光文社文庫)
生ける屍の死(下) (光文社文庫)

  • 作者: 雅也, 山口
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/06/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
アメリカはニューイングランド地方の田舎町、トゥームズヴィル。同地で霊園を経営するバーリイコーン一族では、家長のスマイリーが病床に臥しており、その遺産を巡って家中にただならぬ雰囲気が漂っていた。一方その頃、アメリカの各地で、不可解な死者の甦り現象が起きていたのだが──日本ミステリ史を代表する革新的な名作が、全面改稿により今鮮やかに甦る! <上巻>
遺産騒動の最中、命を落としてしまったパンク青年のグリン。折しも、死者の甦り現象がアメリカの各地で発生し、彼もまたリヴィング・デッドとして甦ってしまう。霊園を経営する一族に巻き起こる連続殺人。その真相を、自らの死を隠したまま、グリンは追うのだが──。被害者、容疑者、探偵が次々に甦る前代未聞の傑作ミステリ。全面改稿により今鮮やかに甦る! <下巻>


2月に読んだ2作目の本です。
この「生ける屍の死」 (上) (下) (光文社文庫)は再読ですね。
「鮎川哲也と十三の謎」という叢書が東京創元社から1988年から1989年にかけて出版されまして、そのうちの1冊でした。
そのときに読んで衝撃を受けたことを覚えています。
ただ、あまりに印象が強くて(なにしろ死者が甦る世界で起こる殺人事件ですから)読み返すことがなかったんです。
その後創元推理文庫で文庫化された以降は、布教活動のために買って人に渡したりしていましたが(笑)、自分で読むことはなく。
2018年に全面改稿の上光文社文庫から出たので、あらためて読んでみよう、と。

この作品「このミステリーがすごい! 1989年版」の時点では第8位だったのですが、
「このミステリーがすごい!〈’98年版〉」で行われた10周年ベスト・オブ・ベスト(1997年版までの9年間のランキングでベスト20に入った作品が対象)では、第1位、
20周年ベスト・オブ・ベスト(2008年版までの20年間のランキングでベスト20に入った作品が対象)では第2位、
「このミステリーがすごい! 2019年版」で行われたキング・オブ・キングス(2018年版までの30年間のランキングで1位を獲得した作品が対象)では第1位
と堂々たる戦績(?) です。

さて再読した結果ですが、まず「印象が強くて読み返さなかった」くせに、ほとんど覚えていなかったことに衝撃を受けました。
甦った死者が
「すまん、ちょっと、死んでたんでな、全然聞いていなかった」(下巻283ページ)
というシーンは覚えていましたけど(笑)。

「長たらしい登場人物表と家系図、舞台となる霊園の見取り図を皮切りに、死に瀕した一族の長と遺産をめぐる家族の腹の探り合い、暴走する棺桶列車、晩餐会での毒殺、殺人予告状、密室、アイルランド古謡の見立て殺人、死体消失、ヴィデオ・テープに映った鬼ごっこ、地獄行きのカーチェイス、犯行現場に残された指紋、変装と人間入れ替わりの可能性、屋根裏部屋の手記、双子の兄弟、伝説のサイコ殺人鬼、等々、等々。」と、創元推理文庫版にある法月綸太郎の解説にある通り、贅沢極まりないこれぞミステリです。
ただ、これらが起こる世界は、死者が甦る世界。

「特殊設定ミステリはここから始まった!」
と上巻の帯に書いてあるのですが、死者が甦る世界が周到に用意されています。
今回読み返して驚いたことに、なかなか事件が起こらない、というのがありました。
死者が甦る世界の状況や死とは何かという考察、舞台となるニューイングランド地方の田舎町トゥームズヴィルやバーリイコーン一族の物語がじっくり書き込まれています。
なにより探偵役をつとめるグリン自身が生ける屍と化すことで、この設定は強化されます。
ちょっと(事件が起きるまでが)長すぎるかも、と読みながら思いましたが、強固な世界が築き上げられているからこそ、後半の怒涛の展開が輝きを放ちます。
良質な特殊設定ミステリが持つべきポイントは、当然ながら、この「生ける屍の死」から始まっているのですね。

そしてもう一点良質な特殊設定ミステリが持つべきポイントが、この特殊設定だからこそ起こった事件であるということで、こちらも圧巻です。
なにしろ、殺しても被害者が甦ってくる世界ですから、殺すことの意味が変容してしまいます。
生者と死者(生ける屍)の思惑が入り乱れる複雑なプロットだというのに、謎が解かれてみると、意外とシンプルに思えるのは、この点がしっかりと骨太に構築されているからだと思います。

ベスト・オブ・ベスト、キング・オブ・キングスも納得の、大傑作だと思います。


<蛇足1>
「腕にはアメリカのゲイたちがよくしているコックリングがちゃらちゃらしているし、」(上巻23ページ)
コックリングってなんだろうと調べてしまいました。
昔読んだ時は、中身がわからないままなんとなく読み飛ばしていたのでしょうね。
しかし、コックリングって、腕にはめれるものなのでしょうか?

<蛇足2>
「IT関連企業や流通業者が野球チーム持つのと変わらしまへん。宣伝効果ちゅうことですわ。」(下巻109ページ)
単行本刊行時の1989年に "IT" という語はなかったようなぁ、と思って手元にあった創元推理文庫版を見たら、
「流通業者が野球チーム持つのと変わらしまへん。」(419ページ)
となっていまして、今回の改訂で盛り込まれたようですね。

<蛇足3>
「トレイシーは駄々っ子のように頭(かぶり)を振って拒絶した。」(283ページ)
「頭」にルビが振られていて、あれ? ”あたま”と読むんじゃないんだ、と気づき、そうだ、「かぶりを振る」の「かぶり」って「頭」と書くんだったなぁ、思いました。


<さらなる蛇足>
本文で触れた「鮎川哲也と十三の謎」という叢書では、鮎川哲也本人による「白樺荘事件」が刊行される予定でしたが、結局実現せず。没後、改稿前の「白の恐怖」が光文社文庫から刊行されました(感想ページはこちら)。
なので、「鮎川哲也と十三の謎」全部買っていたのですが、揃わずじまいとなってしまいました。
残念。
読みたかったなぁ、「白樺荘事件」。


せっかくなので、東京創元社版の書影も上げておきます。
生ける屍の死 (創元推理文庫)

生ける屍の死 (創元推理文庫)

  • 作者: 山口 雅也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1996/02/25
  • メディア: 文庫






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