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ナイトメア・アリー 悪夢小路 [海外の作家 か行]


ナイトメア・アリー 悪夢小路 (海外文庫)

ナイトメア・アリー 悪夢小路 (海外文庫)

  • 作者:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
スタン・カーライルは、カーニヴァルの巡回ショーで働くしがないマジシャンだ。だが彼には野心があった。いつの日か華々しい成功と大金を掴んでみせる。同じ一座の占星術師ジーナと関係をもち、読心術の秘技を記したノートを手に入れたスタンは、若く美しいモリーと組んでヴォードヴィルへの進出を果たすが……タロットの示す運命とファム・ファタールに導かれて、栄光と絶望の果てに男がたどり着く衝撃のラストとは。特異な世界観で魅了する闇色のカルト・ノワール、登場!


ギレルモ・デル・トロ監督により映画化されたノワール、ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの「ナイトメア・アリー 悪夢小路」 (扶桑社ミステリー)です。
映画を観る前に原作を読んでおきたいと思って購入しました。
映画の感想はこちら

読んでみてあらためてわかったことは、ノワール、苦手だということです。
苦手といいましたが、物語にはすっかり引き込まれて読みました。この点は強調しておかないとフェアではないですね。

ビザールな犯罪小説
狂気めいた奔放な文章が乱舞する作品でありながら、本書は因縁めいた美しくシンプルなプロットを持っていたことが最終的に判明する……もっともその美しさは、底なしの恐怖を秘めたものではあるけれども。

帯に霜月蒼さんによる解説から抜き書きがされているのですが、この「シンプルなプロット」というのにどうしてもひっかかるんですよね。
乱暴に要約してしまうと、超能力、神秘的な力に見せかけた詐欺がメインの物語で、主人公スタン・カーライルがファム・ファタールと出会って堕ちていく、という展開なのですが、逆にシンプルすぎるように思ってしまいます。

ノワール自体に詳しくないので見当はずれなことを言っている可能性大ではありますが、個人的にはミステリーの文脈やその流れとしてのノワールという文脈でこの作品を捉えることがよいことなのかどうか、疑問に思っています。
確かに扱われている題材は詐欺ですし、破滅へ向けて運命に?からめとられていく主人公の姿を描いてノワールともいえると思いますが、そしてこの作品と共通するようなプロットを持つ作品がこのあと山のように発表されているのですが、この作品をその文脈に据えるとどうもおさまりが悪い気がしてなりません。

本書の位置づけというのは解説でも触れられていますが、この解説はいろいろと示唆に富んでとても勉強になりました。
「ときにノワール小説は、サイコ・スリラーに接近する。どちらも犯罪/暴力へと人間を駆り立てる無意識の衝動を描く小説だからである。大雑把には、秩序の側に立って非理性を外側から描けばサイコ・スリラーに寄り、非理性を主人公として内側から描けばノワールに近づくと言えるだろうか。いずれにせよノワールは、理性のくびきを脱しようとする非理性の物語であり、ゆえに理性的な叙述を脱した奇怪な語りをしばしば要請する。」
この解説、しびれます。
苦手な理由もなんとなくわかったような気がします。
ミステリーとノワールは近接するジャンルではあるけれども、近接するがゆえにクロスオーバーする作品もあろうかと思いますが、根っこのところでは別物なのでは、と読みました。
おそらく本書は、ノワールの中でも、ミステリーから遠い方のノワールなのだと思います。

蛇足としかいいようのないコメントですが、あくまで本書をミステリとしてみると、不満があります。
作中に、ガラスケースの中の精密天秤を動かして見せるシーンがあり、このことによって大物実業家の信を得るのですが、どうやって動かしたのか、最後まで明かされません。
おおいに不満。
それまでの数々のトリックはあっさり説明されるのに、物語の重要なポイントとなる詐術が暴かれないのはあんまりではないでしょうか。
この点からもミステリーという文脈で捉えるべきではないとも言えそうです。



<蛇足>
「ちょうど足の爪の手入れが必要だから、あなたにマニキュアを塗ってもらうわ。」(337ページ)
手の爪に塗るのがマニキュア、足の爪に塗るのはペディキュアだと思っていたのですが......


原題:Nightmare Alley
作者:WIlliam Lindsay Gresham
刊行:1946年
訳者:矢口誠


本書は、ハヤカワミステリ文庫からも邦訳が出ていますので、そちらの書影も。

ナイトメア・アリー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ナイトメア・アリー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/01/26
  • メディア: 文庫




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