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エラリー・クイーンの新冒険 [海外の作家 エラリー・クイーン]


エラリー・クイーンの新冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

エラリー・クイーンの新冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: エラリー・クイーン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人里離れた荒野に建つ巨大な屋敷が、一夜にして忽然と消失するという不可解極まる謎と名探偵エラリーによる解明を鮮烈に描き、クイーンの中短編でも随一の傑作と評される名品「神の灯」を巻頭に掲げた、巨匠の第二短編集。そのほかにも野球、競馬、ボクシング、アメリカンフットボールが題材のスポーツ連作など、これぞ本格ミステリ! と読者をうならせる逸品ぞろいの全9編収録。


2022年3月に読んだ3作目(4冊目)の本です。
「エラリー・クイーンの冒険」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続くエラリー・クイーンの第二短編集で、創元推理文庫で続いている中村有希さんによる新訳です。

今回も帯に推薦コピーがついています。
「エラリーの名推理のつるべ打ち。謎解き小説の醍醐味がこの一冊に。」有栖川有栖
「この推理は100年後も色あせない。」青崎有吾


9編収録ですが、3つのパートに分けられています。
「神の灯」
新たなる冒険
「宝捜しの冒険」
「がらんどう竜の冒険」
「暗黒の家の冒険」
「血をふく肖像画の冒険」
エラリー・クイーンの異色なスポーツ・ミステリ連作
「人間が犬を嚙む」
「大穴」
「正気にかえる」
「トロイの木馬」

巻頭の中編「神の灯」は、名作という名をほしいままにする名作中の名作ですね。タイトルに引っ掛けて言うと、まさに神々しい傑作。
もっと露骨に手がかりを撒いてもよかったんじゃないかな、というのは後知恵にすぎないでしょう。

まったくの余談ですが「神の灯」というタイトル、なんと読むのだろう、と思っていました(爆)。
「ともしび」? 「あかり」? あるいは「ひ」?
勝手に「ともしび」と読んでいたのですが、どうやら正解だったようです。
109ページにエラリー・クイーンのセリフがあります。
「神の手?」「いや、手じゃない。この事件が解決するとすれば、それを解いてくれる鍵は……灯(ともしび)です」
いや、ルビが振ってあってよかった。

続く ”新たなる冒険” と題された四編はタイトルのつけ方といい、「エラリー・クイーンの冒険」 (創元推理文庫)の正統派の続編ですね。
「宝捜しの冒険」は真珠の紛失事件(盗難事件?)の捜査に、宝探しゲームを絡めたもの。
「がらんどう竜の冒険」は、ドアストッパー(!)が盗まれ、裕福な日本人が姿を消した事件です。手がかりが物理的なものであることが面白かったですね。
「暗黒の家の冒険」にはエラリー・クイーンの家族の一員ともいえるジューナが登場。遊園地ジョイランドのアトラクション暗黒の家を舞台にした殺人事件を扱っています。
真っ暗闇の中での射殺という面白い謎で、目のつけどころはさすがなのですが、手がかりも犯人の正体も、残念ながら期待外れ。当時としては目新しかったのかもしれませんが。
「血をふく肖像画の冒険」はタイトル通り、血を流す肖像画が出てきます。おどろおどろしい怪談にもなりそうな素材ですが、あくまでカラッと理知的なストーリーが展開するところがクイーンらしい。

”エラリー・クイーンの異色なスポーツ・ミステリ連作”と銘打った連作は、スポーツを題材にとっています。
「人間が犬を嚙む」は野球。野球観戦中に起こった元投手の死。ラストで、クイーン警視が息子エラリーに背負い投げを食らわせるのがおもしろい。まあでも、エラリーは試合に夢中で、事件なんかそっちのけだったかもですが。
「大穴」は競馬。結構込み入った展開をするストーリーなのですが、軽快に読めるように仕上がっています。軽いロマンスが盛り込まれているのもエラリー・クイーンには珍しいですし、競馬ならではのラストが楽しい。
「正気にかえる」はボクシング。エラリーのコートが盗まれるというハプニング?から、殺人事件の謎を解き明かすのですが、なかなか印象的なトリック(と呼んでよいと思います)が使われています。
「トロイの木馬」はアメリカン・フットボール。試合中に十一個のすばらしいサファイアが盗まれるという事件なのですが、さすがにこの隠し場所は無理がありますよね......

神々しいまでの「神の灯」との対比として、”エラリー・クイーンの異色なスポーツ・ミステリ連作” は言うまでもなく、”新たなる冒険” の諸作も非常に俗っぽいのがポイントなのかも。

創元推理文庫のエラリー・クイーン新訳、次はなんでしょうね?
どれであっても、楽しみです。


<蛇足1>
「おまけにメインディッシュは羊肉のカレー料理だった。何が嫌いといって、エラリーは羊の肉が大嫌いなのである。おまけに何の料理が嫌いといって、カレー料理ほど胸の悪くなるものはなかった。」(50ページ)
おやおや、エラリー・クイーンは、羊肉やカレーが嫌いだったんですね。
好き嫌いなく食べなきゃダメだよ(笑)。

<蛇足2>
「我が国ではもう何年も前から金貨の所有が法律で禁じられているんですよ。せっかく見つけたところで、おかみに没収されるだけでしょう」(59ページ)
当時のアメリカにはこんな法律があったのですね。

<蛇足3>
「このがっちりした建築物が土台の上で、軸にのっかったおもちゃの家のようにくるっと半回転したなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことが起きるわけがない。」(122ページ)
さすがにエラリー・クイーン(作者)も、まさか遠く離れた東洋の島国で、そんな"馬鹿馬鹿しい"トリックを使ったミステリが紡がれることになろうとは予想だにしなかったのでしょうね(笑)。

<蛇足4>
「匂いまで外国の匂いがするんですよ」「あのまとわりつく、甘ったるい匂い……」(193ページ)
日本人が住む屋敷の印象を説明するところなのですが、甘ったるい匂いって、何を指しているのでしょうね?
お香なのでしょうか? でもお香だと、甘ったるい、とは言わないような気がします。

<蛇足5>
「心理学者でも、東洋人の頭の中の精神の動きかたには面食らうばかりでしょう。」(215ページ)
被害者である老日本人のことを指して言っていますが、ひどい言われようですね(笑)。

<蛇足6>
「上着を脱ぎ、アップルジャックのハイボールを受け取って」(275ページ)
ハイボールとは、ウィスキーのソーダ割のことなのですが、ウィスキー以外でもハイボールというのですね。
アップルジャックには「植民地時代に普及したリンゴ酒」と説明がついています。

<蛇足7>
「まったくこの花粉症ってやつ、なんとかならんのか!」(331ページ)
花粉症!
この頃からアメリカでは一般的だったのでしょうか?




原題:The New Adventures of Ellery Queen
作者:Ellery Queen
刊行:1940年
訳者:中村有希



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