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五色の殺人者 [日本の作家 さ行]


五色の殺人者

五色の殺人者

  • 作者: 千田 理緒
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/10/10
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
高齢者介護施設・あずき荘で働く、新米女性介護士のメイこと明治瑞希(めいじみずき)はある日、利用者の撲殺死体を発見する。逃走する犯人と思しき人物を目撃したのは五人。しかし、犯人の服の色についての証言は「赤」「緑」「白」「黒」「青」と、なぜかバラバラの五通りだった! ありえない証言に加え、見つからない凶器の謎もあり、捜査は難航する。そんな中、メイの同僚・ハルが片思いしている青年が、最有力容疑者として浮上したことが判明。メイはハルに泣きつかれ、ミステリ好きの素人探偵として、彼の無実を証明しようと奮闘するが……。
不可能犯罪の真相は、切れ味鋭いロジックで鮮やかに明かされる! 選考委員の満場一致で決定した、第30回鮎川哲也賞受賞作。


2022年3月に読んだ8作目(9冊目)の本です。
鮎川哲也賞受賞作。

謎が魅力的ですね。
犯人が着ていた服の色について目撃者の証言が食い違う。しかも5通り!
どう処理するのかなぁ、とわくわくしながら読んだのですが、うーん、これではねぇ...苦笑。
5通りにしてみせた心意気は買いたいですが。

この1点に賭けた作品ではなく、選評で辻真先がいうところの「ヒロインの推理と恋が軌を一にして」いるところも大きなポイントですね。
こちら、わりと類例の多い仕掛けで、かつ、丁寧に書かれているので読者に見抜かれやすくなってしまっていますが、この舞台、この人物配置でこの仕掛けはかなり高難度だと思うんですよね。
きれいに着地しているので素晴らしいな、と思います。

あとなにより、介護施設を舞台としていながら、重苦しくなっていない点がいい。

ミステリとしてはかなり小粒なイメージですが、楽しめました。


<蛇足1>
「私はまだ入職から日が浅いので来客の対応をしたことがないのですが、」(15ページ)
入職っていうのですね。初めて出会った言い方です。

<蛇足2>
「メイが話す間、磯はボールペンを動かしっぱなしだった。」(20ページ)
「利用者の家族からは問い合わせの電話が入りっぱなしだし、」(50ページ)
「しっぱなし」というのは、何かを行為・行動をして、そのまま放っておくことを指すので、ここでは「動かしっぱなし」ではなく「動かしどうし」「入りどうし」でしょうね。
この間違い、自分でもよくしちゃうのですが。

<蛇足3>
「百歩譲って青に似ている緑を加えるのはまだ許せても、赤は色の系統が違いすぎる。」(40ページ)
これまたよく使われる表現ですが、百歩は譲りすぎだとどこかで目にしたことがあります。
普通の日本語としては「一歩譲って」で十分だと(笑)。

<蛇足4>
44ページに突然「閑話休題」という語が出てきます。
犯人の性別が男と思われることから、視点人物であるメイが、そのときいた男性を順に思い出すシーンで出てくるのですが、不要な尖った表現が急に出て来てびっくりしました。

<蛇足5>
「それから少しのあいだ、三人は殺人事件について話をした。主に澄子と詩織が質問をして、メイが答える形だった。
 数分後、澄子がお気に入りのミステリドラマの放送時間を新聞で調べ出したあたりで、メイは辞去することにした。」(86ページ)
少しのあいだ話をしたのに数分後? と思いましたが、これは話が終わってから数分後、と読むのですね......

<蛇足6>
メイが最近読んで面白かったミステリとして、ディック・フランシスの「横断」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)をあげるシーンがあって、おお、と思ったのですが、
「読み慣れていないと、古い翻訳ものは読みづらいかもしれませんよ。文章が古めかしいので。」(132ページ)
と続けていてびっくりしました。
そうか、もう菊池光さんの訳は古めかしくて読みづらいのか......
最近の本としてはエリー・アレグザンダーの「ビール職人の醸造と推理」 (創元推理文庫)があげられています。
こちらは「ミステリかどうかの以前に、ビールを飲みたくなること間違いなし」とのことです。

<蛇足7>
『「ダンディ警部シリーズ」の最新作、「誤認五色」を先日読み終えたばかりだった。』(139ページ)
本書「五色の殺人者」の鮎川賞応募時点のタイトルが「誤認五色」だったのですね。こういうのおもしろいです。

<蛇足8>
「あんみつとは、みつ豆にあんこを添えたもの。一方でみつ豆とは、赤えんどう豆、寒天、みかんや桃などのくだもの、白玉や求肥を器に盛り、黒蜜やシロップをかけた甘味である。」(156ページ)
和の甘味はあまり食べつけないので、この区別あまりちゃんと認識していませんでした。

<蛇足9>
巻末にある選評で、辻真先が「ジト目」という表現を使ったある応募作に対して、知られていない表現だとして「あなたの世界はそれほど狭い」と指摘しています。
「ジト目」というのはマンガやアニメでちょくちょく見られる表現なので、あれっ、辻真先知らないのかな? と思ったのですが、辻真先が知らないと言っているわけではなかったです。

<蛇足10>
本作の主人公の苗字が明治。
調べてみたら実在の苗字なんですね。びっくりしました。
当然ながら明治になってからつけられたものだと思いますが、元号、すなわち将来の天皇の諡と同じものを苗字にするなどという大胆な家があったとは......



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