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天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス [日本の作家 さ行]


天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 城山 真一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/02/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
石川県庁の金融調査部で相談員として働く百瀬良太は、会社の経営難に苦しむ兄が、株取引の天才、黒女神こと二礼茜に大金を依頼する場に同席した。金と引き換えに依頼人の“もっとも大切なもの”を要求する茜は、対価として良太を助手に指名する。依頼人に応える茜の活躍を見守る良太。彼女を追いかける者の影。やがて二人は、日本と中国の間で起こる、国家レベルの壮絶な経済バトルに巻き込まれていく。


2022年3月に読んだ7作目(8冊目)の本です。
第14回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
前回感想を書いた「神の値段」 (宝島社文庫)と同時受賞です。

タイトルにもなっている二礼茜が「黒女神(ブラック・ヴィ―ナス)」と呼ばれる存在で、依頼人の ”もっとも大切なもの” として茜が指定したものを渡せば、返済不要のお金を用立ててくれる、という設定になっています。
そして、依頼人の人情噺が百瀬良太という視点人物を通して語られます。

茜の原資はなにかというと、株取引。タイトル通り、株トレードで資金を得るのです。
必勝の天才トレーダー。
なんじゃそりゃ、と思わないでもないですが、物語の起爆剤としてそういう設定なのだと思えば受け入れ可能なラインでしょう。フィクションでこういう強引な設定は、ままあることです。

ところが後半、茜がスランプに落ち込みます。

どうやら吉野仁の解説によると、選考会ではこの茜の不敗神話ぶりが不評だったらしく、応募時の原稿が大幅に書き直されたらしいのです。
つまり、応募時点では黒女神は「連戦連勝のスーパーウーマン」だったようなのですが、それを「勝ちに見放され、どん底に堕ちることも経験した傷だらけのヒロイン」に修正されたわけです。
解説に曰く
「改稿によって、人物造形に深みが加わったばかりか、起伏に富んだ物語となったことで、より面白く、完成度の高い作品に仕上がったと思う。」
らしいのです。

応募時の原稿を読んでいないのでどうこう言うのはフェアではないと思いますが、ぼくの意見はまったく逆です。
この改稿は大失敗だったと思っています。

依頼人の人情噺が続く連作短編集であれば、その改稿もありだったと思います。
しかし、この作品は後半物語の幅が拡がって、ブラック・ヴィーナスの立ち位置(存在理由といってもよいかもしれません)含めて展開していくのです。
「連戦連勝のスーパーウーマン」のままであれば、フィクションにおけるお約束として受け入れ可能であったものが、なまじ失敗もするようになったがために、単なるご都合主義に思えてきます。(作者にとって)都合のいい時に勝って、都合の悪い時に負ける。
そしてこの「負ける」という側面は、ネタバレになるので詳しくは書けないのですが、本作品の根幹をなす設定(それがブラック・ヴィーナスの立ち位置です)のリアリティのなさを大幅に増幅してしまっています。負けるといっても、全体の勝率はすさまじいものではあるのですが、あの立ち位置は連戦連勝であるからこそ成立し、映えるものです。
改稿によって、物語の枠組みをぶち壊してしまったのではないか、と思えてなりません。

解説で
「徹底したリアリズムで現実の経済や株取引を描くというよりも、むしろ大胆な虚構性を導入するなど物語性を重視して出来上がっているのが本作品なのである。」
と書かれていますが、選考会の指摘を受け、なまじ中途半端なリアリティを意識して修正したがために、物語の基盤を破壊してしまったようです。
連戦連勝のヒロインという大嘘を基礎にそれ以外はリアルに構築してみせた物語だったはずのものが、肝心の土台が崩れて作品世界が傾いてしまった、というのが感想です。
もったいないですね。


<蛇足1>
「今、フェミニズム法案の国会への再提出で世論は二分されている。」(147ページ)
三年前に結局国会に提出されなかった法案が国会に出されるかどうか、というのは「再提出」ではないですよね......

<蛇足2>
「そういうお考えが、尊敬できるところでございますの。」(147ページ)
いかにもな女性のセリフとして描かれているのですが、いまどきこんな口調の人、いるのでしょうか?
ことが ”フェミニズム” 法案に関するだけに、余計気になりました。



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