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証言拒否 リンカーン弁護士 [海外の作家 マイクル・コナリー]



<カバー裏あらすじ>
ローン未払いを理由に家を差し押さえられたシングルマザーが、大手銀行副社長撲殺の容疑で逮捕された。彼女は仲間を募って銀行の違法性に抗議するデモを繰り返す有名人。高級車リンカーンを事務所代わりに金を稼ぐ、ロスきっての人気弁護士ミッキー・ハラーは社会的注目を集める容疑者の弁護に乗り出す。 <上巻>
わたしはやってない! 裁判で無実をひたすら訴える容疑者。検察側、弁護側ともに決定的な証拠を欠き、勝敗は五分と五分。住宅差し押さえ代行に絡む莫大な金をめぐり人間たちの欲も蠢く。裁判妨害、血痕、身長差……。刻々と変わる法廷劇の結末は? 名手コナリーの技に脱帽。圧巻のリーガル・サスペンス!! <下巻>


2022年4月に読んだ最初の本です。

「リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「真鍮の評決 リンカーン弁護士」 (上) (下) (講談社文庫)
「判決破棄 リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く、シリーズ第4作です。

ふたたび弁護側となった弁護士ミッキー・ハラーが担当するのはローン訴訟の原告であるシングルマザー、リサ・トランメルが罪に問われた銀行員殺害事件。
もともとの住宅ローンをめぐる訴訟を担当していたハラーが、行きがかり上?殺人事件の弁護も引き受けることに。この被告リサが、面倒な人物だったことがポイントです。
圧倒的に不利な状況で、さらに自分勝手な依頼人。

今回ミッキーが取る弁護方針は早い段階で示されていまして、被告人以外に犯人がいることを示唆するというもので、キーとなるのは原題にもなっている五番目の証人(The Fifth Witness)。
この The Fifth Witness にはもう一つ意味がかけてあり、そちらはある意味ネタバレになりかねないもので、邦題の基礎となり、物語終盤近くには明かされるのですが、念のため字の色を変えておきます。
それは、自己に不利な証言を強要されないという合衆国憲法修正第5条に基づき証言を拒否する証人で、事態が明らかになってから、ハラーは検察から「証言拒否をさせられるための証人(フィフスウィットネス)」と糾弾されます。(369ページ)
これは別にマイクル・コナリーの専売特許というわけではありませんが、非常に効果的に使われています。

裁判が終わり、ある出来事が起こります。
それは物語全体の構図としてみると正しいありさまだと思えるのですが、同時に付け足しのような、蛇足のような気もします。
とはいえ、その後ハラーは大きな決断をしますので、シリーズ的には意義あるエピソードといえるかもしれません。



<蛇足1>
「当時、住宅市場は強含みで、抵当商品は豊富にあり、容易に手に入った。」(上巻27ページ)
ここのところ、ちょっとわかりにくい日本語になっていると思います。銀行や金融関係の英語は、商慣行が違うので、日本語にしにくいですよね。
ここでいう抵当商品は、日本風に言うとすれば住宅ローンのことですから、
「当時、住宅市場は強含みで、(さまざまなタイプの)住宅ローンがいくらでも組める(借りられる)環境にあった」
くらいでしょうか?

<蛇足2>
「最後の書類は、弁護人が最初に支払いを受けるよう、そうした取引で金銭が生じた場合の先取(せんしゅ)優先権を保証するためのものだ」(上巻56ページ)
「せんしゅ」とルビが振ってあるのですが、日本の法律用語では「さきどり」と読むのではないかと思われます。
日本とは法律が違いますから、区別のためわざとかもしれませんが。

<蛇足3>
「じゃあ、ほかに飲みたいものがあれば言ってくれ。もっと牛乳を飲むか?」
「いえ、けっこう」(上巻139ページ)
14歳の娘が父親に答えるセリフとは思えないですね(笑)、「いえ、けっこう」。

<蛇足4>
「マシュー・マコノヒーを起用しようと考えていたんだ。彼はすばらしい役者だ。だが、きみは自分の役をだれができると思うね?」(上巻238ページ)
ハラーが映画のプロデューサーから聞かれます。
こういう楽屋落ちのギャグがでてくるとは。

<蛇足5>
「ティワナ一帯やその先の南にはウェスタン・ユニオン銀行の支店がうじゃうじゃあるのを知っていた。」(上巻248ページ)
ウェスタン・ユニオンは銀行ではありませんが、日本ではわかりにくいので銀行として訳したのでしょうね。

<蛇足6>
「彼は六十歳になろうとしているのに白髪がない。TVカメラ用に染めたのだ。」(上巻424ページ)
といったすぐ後で、本人が現在五十六歳と証言します。
五十六歳で既に「六十歳になろうとしている」と言われてしまうのですね......


原題:The Fifth Witness
作者:Michael Connelly
刊行:2011年
訳者:古沢嘉通


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