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中途半端な密室 [日本の作家 東川篤哉]


中途半端な密室 (光文社文庫)

中途半端な密室 (光文社文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/02/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
テニスコートで、ナイフで刺された男の死体が発見された。コートには内側から鍵が掛かり、周囲には高さ四メートルの金網が。犯人が内側から鍵をかけ、わざわざ金網をよじのぼって逃げた!? そんなバカな(^-^; 不可解な事件の真相を、名探偵・十川一人が鮮やかに解明する。(表題作)謎解きの楽しさとゆるーいユーモアがたっぷり詰め込まれた、デビュー作を含む初期傑作五編。


2023年8月に読んだ本の感想が終わりましたので、読了本落穂ひろい。
2016年1月に読んだ東川篤哉の「中途半端な密室」 (光文社文庫)

「中途半端な密室」
「南の島の殺人」
「竹と死体と」
「十年の密室・十分の消失」
「有馬記念の冒険」
の5編収録の短編集で、東川篤哉の初期作品を集めたもの。
引用したあらすじに「デビュー作を含む」とあり、後ろの<初出>欄を見ると「中途半端な密室」がデビュー作のようです。

「中途半端な密室」
金網に囲まれたテニスコートの中心で発見された死体。屋根がないので、中途半端と言っているものかと思われます。
というと、カーの「テニスコートの殺人」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)を連想しますが、短編ということもあってかあちらよりはシンプルな解決にしているところがミソでしょうか。
新聞記事からすらすらと謎が解かれる手際がよかった。
「すなわちこれは『不可能ではない。だが不可解だ』ということですよ」(16ページ)という探偵役十川一人(かずひと)のセリフは気に入っています。

「南の島の殺人」
南の島のS島で起こる殺人。
「全裸殺人の舞台でSといえばスペインのSに決まってる。」(48ページ)というのは、もちろんエラリー・クイーンの「スペイン岬の謎」 (創元推理文庫)を念頭においたものですね(中村有希さんによる新訳を待っています)。
としながら、このS島は桜島、というのが人を食っています(笑)。
灰を前提とした謎自体は手垢のついたものと言わざるを得ないような古典的な解決を見せるのですが、(ゆるいところはあるものの)要所をきちんと押さえた作りになっています。

「竹と死体と」
昔の新聞に記された、竹に吊るされた地上十七メートルの首吊り死体というのが謎で、容易に想像されるトリックをさらっと否定して見せるのがポイントで、否定のポイントとして新聞の日付がクローズアップされるあたりが鮮やかに思えました。
真相自体は失礼ながらあまり面白いものとはいえず(否定されるトリックの方がおもしろい)、なのが残念ですが、作者の安楽椅子探偵感が披露されるのがとても興味深いです。
「そもそも、新聞記事等から得られる情報に限りがあるのは当然のこと。その少ない情報量を推理力で補って結論を導き出すのが安楽椅子探偵の腕前(あるいは作家の腕前)なのだが、なかなかそううまい具合に物語は進んでいかない。」(99ページ)
「安楽椅子に座った探偵役の隣で、事件に精通した刑事が、現場のっ状況、凶器の種類、被害者の服装、死体の解剖結果、果ては容疑者のアリバイや交友関係に至るまで事細かに説明して聞かせてあげたところで、ようやく探偵役が解決を述べるというのであれば、それこそ《たんてい》が 安楽椅子に座っているだけ」のことであって、普通のミステリと大差ないというものだ。」(99ページ)
この点でいうと、新聞記事であることそのものが謎解きに奉仕している点、会心の作、ということなのかもしれません。

「十年の密室・十分の消失」
本作品の消失トリックについて、解説で光原百合が ”大仕掛けなトリック” と評していて、こういうのは好物なのですが、どうしてもこの種のトリックはリアルなのかどうか気になってしまいますね。
さすがにこのトリックは無理なんじゃないかな?
密室トリックの反則振りには逆に微笑んでしまいますが。

「有馬記念の冒険」
この作品、とてもおもしろいと思いました。
アリバイトリックに使われているものはとても陳腐で、悪い言い方をすれば誰でも思いつきそうなもの。あまりに安易すぎて、ミステリに組み込むのは逆に難しい。
このトリックをミステリとして成立する状況を作りあげたところがとても面白いと思いました。
偶然に頼ったものなのは減点かもしれませんが、成立させるために、<以下ネタバレにつき伏字>犯人以外が仕掛けるトリックにしているのがとても面白かったです。




タグ:東川篤哉
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