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三百年の謎匣 [日本の作家 芦辺拓]


三百年の謎匣 (角川文庫)

三百年の謎匣 (角川文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
億万長者の老人が森江法律事務所へ遺言書作成の相談に訪れた帰途、密室状態の袋小路で殺害された。遺されたのは世界に一冊の奇書と莫大な遺産。森江春策がその本をひもとくと、多彩な物語が記されていた。東方綺譚、海洋活劇、革命秘話、秘境探検、ウェスタン、航空推理──そして、数々の殺人事件。物語が世界を縦横無尽に飛びまわり、重大な秘密へと誘う。全てのピースが嵌まる快感がたまらない博覧強記の本格ミステリ。


2023年10月に読んだ6冊目の本です。
芦辺拓「三百年の謎匣」 (角川文庫)

時代も場所も異なる6つの物語が詰め込まれた異国の”書物”。
西上心太の解説を参照しながら......
十八世紀初頭に東方の国の都市にやってきたイギリス人船医が経験した不思議な事件「新ヴェニス夜話」
東インド会社と海賊船の軋轢「海賊船シー・サーペント号」
十八世紀末全盛期の清で出会った、友人の仇敵の奇妙な行動「北京とパリにおけるメスメル博士とガルヴァーニ教授の療法」
十九世紀後半、東アフリカで失われた黄金都市を目指す旅でキリスト教伝道所での怪異「マウンザ人外境」
西部劇の舞台となりそうなアメリカ西部の小さな町で起こった銀行強盗。犯人と目された社主の冤罪を晴らそうとする新聞記者見習いの少年「ホークスヴィルの決闘」
ドイツからアメリカへ向かう豪華飛行船のなかで起きた殺人「死は飛行船(ツェッペリン)に乗って」

これらを挟み込むように森江春策が直面する現在の密室状況の事件。
こういう作風のミステリの場合、それぞれの話のつながりが重要となってくるわけですが、その点少々空振り気味です。
思いつきとしてはとても興味深いものの、結びつき方がきわめて弱いと思ってしまいますし、なにより現代パートの犯人の立ち位置が、狙いとずれたところにいるように思えてなりません。

以下のように森江春策が述べていても(色を変えておきます)、その印象は拭えません。
いや、必ずしも先行者たちのトリックに学んだとは限らないし、ひょっとしたら手記を読みさえしなかったかもしれない。ただこの黒い本がそばにあることだけで、彼らはときにトリックを仕掛け、逆に見破る側に回ったりもしながら、伝言ゲームのように二重性と空間錯誤のトリックを受け継いできた」(343ページ)
また現代パートの犯人が
言っとくけど、私は昔の人間が書き散らした紙くずに興味はなかった。だから、そこで解き残された謎なんて知りもしなかったし、まして参考になんかしなかった。」(351ページ)
と言うのも個人的には興ざめでした。

その意味では成功作とは言えないと思うのですが、とはいえ、これだけ様々なタイプの物語を不可能興味付きで展開してみせてくれるのはとてもありがたいですし、なにより、物語とミステリとしての狙い処が面白い。
これ、狙いがうまく嵌まっていたら、恐ろしい傑作になっていたのでは、とワクワクしてしまいました。


ところで、最初の「新ヴェニス夜話」の舞台の都市はどこか、というのも謎の一つで、手記の作者の正体と併せて、とてもおもしろいアイデアだと思いましたし、アヒルのくだりには爆笑しそうになりました。
でもこれ、見え見えですよね?





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