プールの底に眠る [日本の作家 ま行]
<カバー裏あらすじ>
13年前の夏休み最終日、僕は「裏山」でロープを首に巻いた美少女を見つける。自殺を思いとどまった少女は、私の命をあなたに預けると一方的に告げた。それから7日間、ばらばらに存在する人や思いや過去が繋がりはじめた。結末は何処に? 切なさと驚きに満ちた鮮烈デビュー作。〈第42回メフィスト賞受賞作〉
2023年12月に読んだ2冊目の本です。
白河三兎「プールの底に眠る」 (講談社文庫)
メフィスト賞を受賞したデビュー作です。
若いころに読めばよかったなぁ、というのが読後の第一印象です。
解説が北上次郎で、いつものように熱のこもった文章で白河三兎の魅力が語られています。
「群を抜くセンス」「巧みな構成」「白河三兎の小説はすべて、キャラクターよく、センスよく、台詞もよく、印象的なシーンも多いという傑作ばかり」
その通りだな、と思うのですが、だからといってこちらに響いたかというと、そういうわけではありませんでした。
非常に印象的な物語ですし、印象に残るやりとりも随所にあります。
たとえば
「あなたって少し変わってる」
「僕は普通の高校生だよ」と否定した。
「知らないの? 普通の人間なんてどこにもいないのよ」
「それは慰めの言葉だよ」(29ページ)
「愛する家族を失うくらいなら、一生お小遣いがなくてもいい。好き嫌いしないで、残さずに食べる。祖母ちゃんが戻ってくるなら、僕は何でも言うことを聞く。
実に子供らしい願いだ。もちろんどこの神様も僕の願いを聞き入れてはくれなかった。願うことの虚しさと、願うことしかできない子供の無力さを幼心に知ったものだ。」(168ページ)
こういうのを読むのはとても楽しい。
高校三年生の主人公僕とセミと呼ばれる中学一年生の少女(ちなみに僕はイルカ)の七日間は、極度に屈折しているもののキラキラしています。
三十路を迎えた僕が十三年前の過去を振り返っているというかたちでつづられているのですが(そのことは冒頭の序章ではっきり書かれています)、そのことをすっかり忘れてしまいました。
なので、高校生にしてはやけに老成した語り手だな、という違和感を抱きながら読むことになってしまいました。
セミのキャラクターが、ませているというのか、こちらも妙に老成したところがあるように感じられたのも、違和感に拍車をかけました。
終章では再び現在の物語になるので、主人公の語りの設定については自分の勘違いを修正できましたが、セミはそのまま大人びていたわけですね。
(誤解のないように念の為言っておきますと、この大人びたセミこそがこの物語の魅力の根源とも言えます)
この魅力的な物語を支えるのが、作者の技巧なのですが、この技巧が個人的にはマイナスに働いてしまったようです。
自らの勘違いのせいでずっと違和感を抱き続けながら読んでいたことで、技巧面での狙いに気づきやすくなってしまったのかもしれません。この技巧の結果北上次郎が「最後にそれが一気に噴出する」という効果が得られるはずが、力が減じられてしまいました。
残念。
白河三兎の別の作品も読んでみたいと思いました。
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