幻影城市 [日本の作家 柳広司]
<カバー裏あらすじ>
野望と陰謀が交錯する満州の人工都市新京。この映画の都は「幻影城市」と呼ばれた。若き脚本家志望の英一は日本を追われ、満州映画協会の扉を叩く。理事長甘粕正彦、七三一部隊長の石井四郎、無政府主義者、抗日スパイら怪人が闊歩する中、不可思議な事件が続発する──『楽園の蝶』を改題、改稿した決定版。
2024年1月に読んだ2冊目の本です。
柳広司「幻影城市」 (講談社文庫)。
単行本の時のタイトルは、「楽園の蝶」だったようです。
日本を追われるように満州の首都新京へ逃げ出した24歳の主人公英一。脚本家死亡であることから、伝手を頼って満州映画協会へ。
こういうのいいですね。
持参した脚本について、ドイツ帰りの若き女性監督・桐谷サカエから厳しい洗礼を受ける。
これもいい。
脇を固めるのは、独身寮の相部屋で4歳年上の山野井、脚本部養成所の中国人学生陳文、出稼ぎに新京にやってきたその妹桂花、フィルム倉庫のちょっと怪しげな渡口老人。
楽しくていいではありませんか。
撮影所での幽霊騒ぎからはじまり、主演女優がけがをする事故へと.......
この部分、楽しい。
通勤電車で読んでいたのですが、没頭して危うく乗り過ごすところでした。
面白く読んだのですが、不満もあります。
満州ということで、満州映画協会の理事長があの甘粕正彦。
さらには七三一部隊長の石井四郎まで出てきます。あらすじにもあるように、無政府主義者や抗日スパイの姿も見え隠れ。
とすると、物語の背景というか枠組みの見当がうっすらとついてしまいます。
そしてその通りに物語は進んでいく。
ちょっと興ざめですよね。
「満州には国民が一人もいない」(209ページ)
という指摘があり、
「嘘ですよ、五族協和なんて。この新京ですら、中国人は中国人で街を作り、満州人は満州人でひとかたまり、蒙古人は蒙古人同士、朝鮮人や日本人は言うまでもありまえん。何のことはない、五族が別々に暮らしているだけです。とても協和なんて呼べるものじゃありません。」(210ページ)
と。
虚構を作る満映が、「見えているままのものは何ひとつない。すべてが見かけとは違う。すべてが欺瞞、すべてが幻、すべてが嘘」(207ページ)として ”幻影城市” と呼ばれていることと、満州のありさまを重ね合わせるというのは物語の狙いとしてよくわかるのですが、そのせいでか、謎の底が浅くなってしまっているのは少々寂しい。
もっとそれぞれの立場が入り乱れるような謎を、柳広司なら紡ぎだせたはずと思えてなりません。
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