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石の中の蜘蛛 [日本の作家 あ行]


石の中の蜘蛛 (集英社文庫)

石の中の蜘蛛 (集英社文庫)

  • 作者: 浅暮 三文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/03/17
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
楽器の修理を仕事とする立花は交通事故に遭い入院する。病院で気づいた時、彼の耳に洪水のように音が飛び込んできた。事故で聴覚に異状をきたしたらしい。引っ越しをし、新しい部屋で暮らすうち不思議な音に悩まされる。女らしい前住人の生活音のようだ。それとカサカサと鳴る石も残されていた。興味を持った立花は石と音を頼りに女を捜し始める。日本推理作家協会賞長編部門受賞作。

帯には、「ハードボイルドとファンタジーの融合」という惹句もあります。
行方知れずの前住人を捜す、というのがメインなので、確かにハードボイルドですね。主人公の過去も、ハードボイルドらしい設定になっています。でも、普通のハードボイルドを期待してはいけません。
ファンタジーとありますが、メルヘンチックなものではありません。現実離れしている、という程度の意味でしょうか?
事故のせいで異常に過敏になった聴覚を武器に捜します。
音が見えてしまう。音が視覚に訴えるところから始まります。
そして、音によって、その音をたてている人物や物の形状や来歴まで感じ取ってしまう。
さらには、部屋に残された音の痕から前の住人の暮らしぶりを見抜く--スプーンで慎重に床を叩いていって場所場所の音を聞き分け、歩幅や行動を読み取っていく、など。
このように進化(?)していく主人公の探偵ぶりがすごい。
音の視覚化というのが最初飲み込みづらかったのですが、いろいろな表現で読者に迫ってきます。圧倒されます。次第次第に、この作品の独特の世界に馴染んできます、そうなってからは夢中でした。
聴覚が、視覚になって、しかも文章化されるというすさまじい技巧。小説ってすごいなぁ、と感じました。
客観的には主人公はストーカーみたいなんですが(苦笑。でも、主人公がこれほどまでに前の住人を捜し求める理由がありません...)、作者が繰り出す音のディテールに圧倒されて、それほど気にはなりませんでした。
ストーリー自体は単純というか、典型的なハードボイルドのパターンをなぞっているのですが、「石の中の蜘蛛」というタイトルに象徴されるテーマや主人公の設定からして、これしかないという着地になっていると思うので、意外性がないとかパターンどおりで平凡だとかいう批判票よりは、作品の構図を支持したいです。
浅暮さんの本はあまり文庫化されていないようなので、どんどん文庫化してほしいです。

<おまけ>
「バークリー・スクエアのナイチンゲール」という曲が出てきます。ステファン・グラッペリの「魅惑のリズム」 というアルバムに収録されているもの、ということで、非常に気になりました。でも、日本版は品切れのようだったので、輸入版の「Improvisations - Jazz In Paris」 を注文して買ってしまいました。いつもは聞かないタイプの曲なのですが、買ってよかったな、と思いました。

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