黒水仙 [日本の作家 は行]
<裏表紙あらすじ>
宮城県の第八十八銀行白山支店で行員が射殺され、一億円と支店長が消えた。行員の口に押し込まれていたハンカチに施された黒い水仙の刺繍に、捜査官は首を傾げる。ほどなく、崖下に転落炎上した車から支店長が見つかり、当局は方針転換を迫られて……。菊地警部が苦悩しつつも辿り着いた、黒水仙に象徴される悪しきものとは何か。父娘作家のデビューを飾った『獅子座』 に続く第二作。
上に引用した amazon.co.jp では作者は藤雪夫となっていますが、書影からもわかるように、藤雪夫 藤桂子が正しく、父娘合作です。丸谷才一のいうとおり、父親が篋底に秘めていた原稿(「渦潮」というタイトルだったようです)を父娘で相談し娘が書き直して出版した(改稿中に藤雪夫は亡くなってしまったそうです)、というロマネスクを感じさせる成り立ちの作品です。
したがって、かなり古めかしい。
あとがきで藤桂子が明かしている藤雪夫の信条が、
1、本筋はあくまでも、ごまかしのない本格ものであること。
2、往々にして本格ミステリーの陥る点、すなわち、トリックに登場人物が引きずられ、血の通わない人間になるのを避けること。
3、ハッピーエンドにせよ、悲劇的な結末にせよ、読後感の悪い作品は書かないこと。
4、あまりハードな暴力シーンやベッドシーンは書かないこと。同じ意味で、汚い表現や、野卑な言葉は、極力これを避けること。
5、欲を言えば、全体として推理小説であると同時に、人間の物語であること
というもので、古き良き探偵小説を思わせて、なかなか良かったですね。
さて、肝心の作品のほうですが...
トリックが、いくつも投入されています。
手の込みすぎた機械的なトリック(いっそ、派手、という単語が似つかわしいくらい複雑極まりないトリックで、「珍味」です(笑))が披露されたり、警察よりも読者のほうが先に気づいてしまうレベルのアリバイトリックがあったり、とぎこちないところが多々あるのも、かえって趣を感じましたが、一般的にはおすすめしづらいですね。いくつもの親子のかたちを盛り込んで人間ドラマを仕上げようとした努力は買いたいですが、ミステリ部分とずれちゃってるのが残念。
でも、まあ、たまにはこういうレトロ感ある作品を読んでみるのもいいかな、そんな気分になりました。
<蛇足>
「今回の犯行から読み取れる犯人像は、老獪、邪悪。底意地の悪さときたら女性的な感じがするほどだ」(P207)なんて記載がありますが、これ、父親の残した文章? それとも娘が書いた文章? ちょっと可笑しくなりました。
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