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砂漠 [日本の作家 伊坂幸太郎]


砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれ成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

読了後、いやあ、伊坂幸太郎はいい、とまず思いました。
なによりやはり語り口、文章がいい。ずっとこの世界に浸っていたい気になります。
何度も大笑いしましたし、時折はさまれる「なんてことは、まるでない。」というフレーズも気に入りました。
解説でえらく絶賛されている、西嶋くんはあまり好きではありませんが....
裏側の帯に「自分たちさえ良ければいいや、そこそこ普通の人生を、なんてね、そんな生き方が良いわけないでしょう。俺たちがその気になれば、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」とあって、このセリフを言うのが西嶋くんです。
(ただ、「--本文より」なんて書いてありますが、このままの文章・セリフはなかったと思います。P18にある文章を前後入れ替えて、くっつけたもの、です。でも、雰囲気はよく出ているので〇ですね。)
こんなことを言い出すヤツ、身近にいたらちょっと鬱陶しくないかな? と心配します。
そう考えてしまうので、この小説でよいのは、西嶋くんを取り巻く周りの人物なんじゃないかな、と思います。語り手の北村もそうですが、南も鳥井も東堂も、北村の彼女となる鳩麦さんも、みんなステキです。鬱陶しそうな西嶋くんを、きちんと輝かせていますもの。
タイトルの「砂漠」というのは、上の西嶋くんのセリフに出てきますが、鳩麦さんの言葉(P227)にも登場します。いわく、
「学生は、小さな町に守られているんだよ。町の外には一面、砂漠が広がっているのに、守られた町の中で暮らしている」
「砂漠というのは、いわゆる、社会ってこと?」と聞く北村(語り手)に対し、
「社会って言っちゃうと、恰好悪いじゃない」「町の向こう側に広がる、砂漠のほうがイメージが近いよ」と答えます。そして、
「町の中にいて、一生懸命、砂漠のことを考えるのが、君たちの仕事かもよ。言っておくけどね、砂漠は酷い場所だよー」
と続けるのです。
冒頭のサン=テグジュペリの『人間の土地』 からのエピグラフは、
「ぼくは砂漠についてすでに多くを語った。
  ところで、これ以上砂漠を語るに先立って、
   ある一つのオアシスについて語りたいと思う。」
となっていまして、この作品そのものが大学生生活というオアシスを描いたものであることを示しているようです。
一方で、最後の卒業式の学長の言葉が
「学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時は良かったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対に考えるな。そういう人生を送るなよ」
というもので、感慨深いものがあります。--これもサンテグジュペリの引用らしいのですが...
学長の言葉はもうひとつ、「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」というのもありまして、いいこと言うなぁ、って感じなわけですが、いろんなことはあったものの、贅沢な学生生活を送れた西嶋くん、北村をはじめとする登場人物たちのこれからが引き続き魅力あるものであることを願っています。
タグ:伊坂幸太郎
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コメント 2

まっきー☆

伊坂氏は良いですよね~。 現代作家に傾倒しないワタシですが、彼は好きです。 やはり「死神の精度」はあっぱれですよ!
by まっきー☆ (2012-07-20 20:02) 

31

まっきー☆ さん、ありがとうございます。
伊坂、いいですよね~。
積読にいっぱいたまっているので、ちょっとずつ大切に読んでいきたいと思っている作家です。
by 31 (2012-07-28 11:09) 

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