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風の影 [海外の作家 さ行]


風の影 (上) (集英社文庫)風の影 (下) (集英社文庫)風の影 (下) (集英社文庫)
  • 作者: カルロス・ルイス・サフォン
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/07/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
1945年のバルセロナ。霧深い夏の朝、ダニエル少年は父親に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」で出遭った『風の影』に深く感動する。謎の作家フリアン・カラックスの隠された過去の探求は、内戦に傷ついた都市の記憶を甦らせるとともに、愛と憎悪に満ちた物語の中で少年の精神を成長させる…。17言語、37カ国で翻訳出版され、世界中の読者から熱い支持を得ている本格的歴史、恋愛、冒険ミステリー。 <上巻>
謎の作家フリアン・カラックスの過去が明らかになるにつれて、ダニエルの身に危険が迫る。一方、彼は作家の生涯と自分の現在との不思議な照応に気づいていくのだが…。ガウディ、ミロ、ダリなど幾多の天才児たちを産んだカタルーニャの首都バルセロナの魂の奥深くを巡る冒険の行方には、思いがけない結末が待っている。文学と読書愛好家への熱いオマージュを捧げる本格ミステリーロマン。 <下巻>


2006年週刊文春ミステリーベスト10 第2位、「このミステリーがすごい! 2007年版」第4位です。
舞台となっているバルセロナは旅行で2回行ったことがあるのですが、思い出してなんだかうれしくなりましたね。アルダヤの館、とかグエル公園の近くかなぁ? カフェ「クワトロ・ガッツ」とか有名で、たいていのガイドブックには載っていますし、食事をしに行きました。
この長い作品の冒頭、11歳のダニエルが父親に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」。わずか10ページのこの部分を読むだけで、わくわくできる物語が始まる予感がします。P15からP16にかけての、父親による「忘れられた本の墓場」の説明のなんと魅力的なことか。
このあと、「忘れられた本の墓場」でダニエルが手に入れた本、「風の影」の作者、フリアン・カラックスの過去をさぐるストーリーが展開します。
ダニエルの、そしてフリアンの成長物語が、さまざまな語りで明らかになっていくスタイルで、ダニエル自身の物語と、フリアンの物語が、時を隔てて響きあう重層的な展開で、まさに「ミステリーロマン」と呼ぶにふさわしい作品です。
狭義のミステリの枠からするとはみ出てしまいますし、意外性を狙ったものではありませんが、各種ベスト10で上位に入ったのも納得のエンターテイメントです。
安心してお勧めできます。きっと夢中になれることでしょう。

といっておいて、気になった点を...
冒頭に出てくる「忘れられた本の墓場」があまりにも魅力的すぎるので、そちらに焦点が当たるのでは、と考えたのですが、ストーリーは、フリアンの方へシフトしていきます。振り返ってみると、「忘れられた本の墓場」はあまり重きが置かれておらず、とっておきの「つかみ」でしかなかったようです。
冒頭だけではなく、何ヶ所か、わりとポイントとなるシーンで「忘れられた本の墓場」は登場してはくるのですが、冒頭も含め、「忘れられた本の墓場」は、珍しい本のある場所、あるいはダニエルが本と出合った場所という程度の意味合いしかなく、「忘れられた本の墓場」がなくても、このストーリーは構成可能です。
いまのままでも十二分におもしろい作品なのですが、せっかく「忘れられた本の墓場」などというとびきり素敵なアイデアを出したのだから、それを生かしたストーリーを読みたかったなぁ、なんて贅沢な希望を抱いてしまいました。
作者カルロス・ルイス・サフォンの次作、「天使のゲーム」 (上) (下) (集英社文庫) にも「忘れられた本の墓場」は登場するようなので、そういう方向にストーリーが展開するといいなぁ、なんて勝手な期待をして、読みたいと思います。


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