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技師は数字を愛しすぎた [海外の作家 は行]


技師は数字を愛しすぎた【新版】 (創元推理文庫)

技師は数字を愛しすぎた【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ボワロ&ナルスジャック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/04/27
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
パリ郊外の原子力関連施設で起きた殺人事件。技師長が射殺され、金庫から重さ20キロほどもある核燃料チューブが消えた! そのチューブは、パリ市民を核爆発、放射能汚染の恐怖にさらす危険物だ。スパイ事件か? 司法警察の捜査が開始されたが、犯行現場は完全な密室状況だったと判明。さらに続く不可能状況での事件。仏ミステリ界を代表する共作作家による、傑作本格ミステリ。


新訳ではないようですが、待望の復刊-というか、新版刊行でした。
奥付を見ると、初版が1960年3月25日、1974年8月14日に第7版が出ていて、その次がこの新版2012年4月27日となっています。

核物質入りのチューブはどこへ消えたのか? という緊迫感の中で、どうやって密室を構成したのか? とか、犯人はどうやって犯行を成し遂げたのか? という密室ミステリの王道を解いていくストーリーで、密室トリックは、現代から見るとわかりやすいというか、今となってはかなり同様の作例のあるトリックなので、意外感はないと思いますが、なかなか手順としてはよくできていると感じました。いくつ目かの密室であからさまなルール違反というか、それはないでしょ、的なトリックが堂々と使われているのもご愛嬌。
と書くと、いかにも普通の密室ミステリのようなのですが、なんだか、ちょっと通常の密室ミステリとは手触りが違います。いわゆる密室ミステリを期待すると肩すかしかもしれません。
この作品における密室の占める割合はかなり高くその意味では立派に密室ミステリなのですが、全体のストーリーに溶け込まされているというか、小説の中心に密室がないように思いました。全体を通した印象が、うまく説明できませんが、どうも密室ミステリっぽくないのです。

チューブ盗難に絡む放射性物質によるサスペンスも途中から腰砕け。
登場人物が少ない上に、殺人が相い次ぐので犯人を当てることも難しくはありません。
そして密室の扱いもなんだか不思議。
と、こう書くとダメな作品のように思われますが、いえいえ、十分おもしろく読みました。
一体何が、と訊かれると説明しがたいですが、あえて言えば、雰囲気、でしょうか。

まず、タイトルがよいと思いませんか?
「技師は数字を愛しすぎた」
雰囲気ありますよね。
技師、というのは第一の被害者で、19ページには
「『数字だよ』とルナルドーは説明した。『あの男の頭を開いてみても数字だけしか見つからないだろうさ!』」
と書かれていますので、このことを指すものだと想像できます。
でも、「愛しすぎた」というのはどういうことか、わかるようでわからないのも、最後の方まで来ると、やはり気の効いたタイトルだったんだなぁ、とわかる仕掛けになっています。
このあたりも含めて、全体としてよくできたミステリだと感じました。
復刊されてよかったです。

P.S.
ところで、本筋とは関係ないのですが、95ページに
「オ・ド・コローニュをちょっとふりかけよう」
という訳があります。普通日本語では「オー・デ・コロン」といいますよね。
1960年には「オ・ド・コローニュ」と表記していたのでしょうか!?


原題:L'Ingenieur aimait trop les chiffres
作者:Boileau Narcejac
刊行:1958年



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