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代理処罰 [日本の作家 さ行]


代理処罰

代理処罰

  • 作者: 嶋中 潤
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/02/19
  • メディア: 単行本


<帯あらすじ>
苦節14年、8度目の最終候補、諦めることなく書き続けた男が、
ついに選考委員を落とした、感涙の家族愛ミステリー!
誘拐された最愛の娘。
救えるのは、ブラジルに消えた妻なのか!?
絶体絶命の父親、絶望のカウントダウンが始まる!


単行本です。
第17回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
三度目の正直ならぬ、14度目の正直ですか。凄い執念ですね。
さすがに文章は読みやすかったですが、作品の内容的に14年分の成果が籠っているかというと、残念ながらそこまでは感心できませんでした。

主人公の岡田はブラジル駐在中に日系ブラジル人エレナと結婚。日本帰国後エレナは交通事故で人を死なせてしまいブラジルへ逃亡。岡田は高校生の娘悠子と、心臓移植手術をした息子の聡を実家の母親に預けて働いている。
そんな折、悠子が誘拐され、二千万円を要求、金は娘の母親に持参させろ、と要求がある。
悠子の母エレナはブラジルへ逃亡してしまっていていない...

ここでタイトルでもある代理処罰が、クローズアップされます。
「ブラジルは、自国民の他国への引き渡しを憲法で禁じている。このため日本で罪を犯したブラジル人がブラジルへ逃げ帰ってしまった場合、本人の意思で日本へ戻る場合を除いては、日本の警察当局が容疑者を逮捕することはできない。こうした場合に適用されるのが代理処罰となる。
代理処罰(国外犯処罰規定による訴追)とは、日本の裁判権が及ばない母国など、国外に逃亡した犯罪容疑者について、捜査資料を提供し母国や逃亡先の国の法律に基づいて裁いてもらう手続きである。」(67ページ)

で、結局、岡田はどうすると思います?
なんと、ブラジルにエレナを探しに行くのです。
身代金引き渡しまでの非常に限られた時間、見つかるかどうかも分からない、さらには見つかったとしても一緒に日本に帰ってくれるかどうかも分からない妻を探しに、片道25時間もかかってしまうブラジルまで、行きますか?
ここで本を投げ出してしまう人、多数いると思います。
ブラジルに着いてからも、ポルテイロ(ガードマンのようなものだそうです。本書では地元の道案内もかねていそうです)はつけてもらっていますが、行き当たりばったり。無計画。そりゃあ、遠い異国の地で計画的な行動は無理でしょうが、ちょっとげんなりします。
ブラジルでもさまざまな事件が起こるのですが、あわただしく、そのおかげでブラジル感というか、異国感が希薄になってしまっています。

あまりにもディテールがお粗末ではなかろうかと。
ミステリとしても、誘拐の部分とか、代理処罰の対象となる事件のあり方とか、きわめてありきたりで、読者はほぼ間違いなく真相を事前に言い当てることができるくらいの底の浅さです。

でもね、つまらなかったか? と聞かれると、そうでもない。
家族愛ミステリーとして、がんばるお父さん、奮闘するお父さん像は、なかなか好感が持てました。
いろいろ大変なこともあったけど、これからも大変なこといっぱいあるだろうけれど、家族でしっかり生きていってほしい、とそんな感想を抱きます。
展開がスピーディーなことも、この物語のテンポにはあっていたと思います。

ということで、いろいろと残念なところの多い作品でしたが、なんとなく不思議な居心地良さを感じました。

ところで、応募時点のタイトルは「カウントダウン168」だったそうです。
金曜日に誘拐されて、身代金の引き渡しが次の金曜日なので7日間=168時間ということでしょうね?
でも、実際には引き渡し時が分かったのは日曜の夜なので、そこからだと168時間ではありませんし、ブラジル行の飛行機に乗り込んだときに、残り時間116時間と携帯にセットする印象的なシーンもありますし、あまり適切なタイトルではなかったように思いますね。
「代理処罰」もちょっとピンぼけなタイトルではありますが...




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