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パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から [日本の作家 似鳥鶏]


パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)

パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/09/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
警察を突然辞めた惣司智(そうじさとる)は兄の季(みのる)が継いだ喫茶店でパティシエとして働き始めた。鋭敏な推理力をもつ智の知恵を借りたい県警本部は秘書室の直ちゃんを送り込み、難解な殺人事件ばかり相談させている。弟をお菓子作りに専念させたい兄は、なくなく捜査を手伝いを。人が好い兄の困った事態を見かねた弟は、しぶしぶ事件解決に乗り出す羽目に……。


「喪服の女王陛下のために」
「スフレの時間が教えてくれる」
「星空と死者と桃のタルト」
「最後は、甘い解決を」
の4話収録の短編集です。

あらすじを読んで、喫茶店が舞台で、パティシエが探偵役で...ということで、ああ、流行りの傾向の作品に似鳥鶏も手を出したのかぁ。今一つ感心しないなぁ、なんて思いながら、とはいえ似鳥鶏ファンを自認する立場としては読まねば、とちょっとおそるおそる、で読みました。
結論から申し上げると、やはり流行に便乗した気配はあるものの、ミステリ度は、その辺の作品対比濃く仕上がっていましたので、個人的には満足しました--ファンなので、評価は甘めだと自分でも思います。

一見安楽椅子探偵もののような感じですが、事件を運んでくるのが警察、というのがポイントでしょうか。
日常の謎、に埋没していないのが好印象。
それにしても、その事件を運んでくる、県警本部秘書室の直ちゃん(直井楓)のキャラクターがすごい。
「~っスよ」という言葉づかいも強烈なら、やることが警察官っぽくない。というか、警察官だったらアウトでしょう、ということが多い。
もちろん、警察であることを利用して、いろいろと調べたりできるので、ミステリとして便利です。

「喪服の女王陛下のために」は、ミステリではかなりお馴染みの要素を組み合わせて、それでいて、それぞれの持つ方向性とは違うところへ着地させようとした作品なのではなかろうかと思います。このどっちつかず感がポイントなのではないでしょうか。

「スフレの時間が教えてくれる」は、パティシエだけに(いや、違いますね)、事件の解決のヒントにスフレを使てはいますが、苦しい...
「何も言わなかった」に対しての「一度も訊いてくれなかった」というのは印象に残っているんですが。

「星空と死者と桃のタルト」は、桃のエピソードはちょっと勇み足っぽいですが、いやあ、トリックは好きですね。前例のあるトリックではありますが、そして、そのままな感じで使われていますが、ここでそのトリックを使うのかぁ、と感じ入ってしまいました。
トリックに不可欠な小道具も、堂々と読者にさらされています。

「最後は、甘い解決を」は、甘い解決、というタイトルとは裏はらに、きわめて重いテイストです。うすうす、気づいてはいたのですが、もっと軽やかなものを期待していたので、そうなったらいやだなぁ、と思いながら読んで、着地はそこに。うーん、苦い。
正義面した「どうして許してあげないの?」という言葉による暴力への反発には強く共感しましたが、こういう解決はちょっと行き過ぎ感がありますね。
このラストだと、続編が作りにくいのではないだろうか、と余計な心配をしてしまいます。タイトルの構造が、続編が作れるような感じに読み取れますので。

似鳥鶏は、流行を後追いしなくても、独自の作品、作風で勝負できる作家だと思うので、いままでのような形で作品を発表してもらえることを期待します。
もちろん、この続編でも買って読みますけれども。


<蛇足>
「お召し上がり」というのはよく使われる表現だとは思いますが、「召し上がる」がすでに敬語ですから、「お召し上がり」は二重敬語というのか、なんというのか、過剰な敬語で×ではなかろうかと思います。


<2020.7追記>
2020年4月に「難事件カフェ」と改題され、光文社文庫から再文庫化されました。

難事件カフェ (光文社文庫 に 22-4)

難事件カフェ (光文社文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫


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