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見えない復讐 [日本の作家 石持浅海]


見えない復讐 (角川文庫)

見えない復讐 (角川文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
エンジェル投資家・小池規彦の前に、同じ大学の後輩にあたる田島祐也が現れた。立ち上げたばかりのベンチャー企業への出資を求めに来たという院生の田島は、熱意と才能に満ち溢れた若者のように見えた。しかし彼の謎めいた行動から、小池は田島が母校の大学に烈しい復讐心を持っていることを見抜く。そして実は小池自身も、同じ復讐心を胸に抱いていたのだった……。「実行者(テロリスト)」と「支援者(スポンサー)」、ふたりの天才が繰り広げる極限の推理劇!


今年読んだ3冊目の本です。
とても石持浅海らしい作品でした。
極めて石持浅海作品らしい登場人物が登場します。
目次をみると第一話から第七話とありますが、序章、最終章で挟んでありますので、長編として読めばよいのだと思われます。

まず、法人への復讐を考える大学院生、というのがおもしろい。
そしてそのためには大きな金額の金が必要で、その金がないから、稼げばよい、とベンチャー企業を設立する、というのが、これまたおもしろい。
こんなこと、普通考えませんよね。
この大学院生田島と、彼に出資することになる投資家の小池が主要人物です。

田島の復讐の対象に対して、小池も恨みを抱いていて、田島の意図を見抜いて小池は出資を決断する...
いやぁ、無茶苦茶です。
でも、無茶苦茶だからいいんです。石持浅海らしい。

小池が田島に会社経営のアドバイスをした、というくだりを読んだところで、ひょっとするとベンチャー経営を扱った新しい小説になるんじゃないかな、という別の期待を抱きました。
事業がうまくいく、ということには、財務面、資金面もうまくいくということが兼ね備わる必要があります。企業が倒産するのは、金が回らなくなるから、です。
ですが、企業小説で事業の苦労そのものを描いたものはあっても、資金面、財務面を扱った小説はあまりないような気がしていて、この「見えない復讐」 (角川文庫)における小池のアドバイスが財務面であったことから、そこを重点的に扱った小説になるんじゃないかな、と期待したわけです。
この期待は裏切られましたが(そりゃあ、まあ、こちらの勝手な期待ですから)、肝心の復讐をめぐる、ロジック遊びは十分楽しめました。

法人に対する復讐の資金獲得のため法人(ベンチャー企業)を設立する、ということから、一つ予想していた展開があったのですが、違った展開を見せてくれました。
石持浅海、周到です。予想をはるかに超えるひねりを見せてくれました。
うーん、そちらへ話を転がしていきますか...なるほどねー。
エンディングはかなり衝撃的です。
異論もあろうかと思いますが、この作品のラストはこれがふさわしいようにも思えました。

ただ、作品全体として、後味が悪いんですよね。
物語の初めから「結果によっては多数の死者が出る」という前提に立っていることが明かされてはいますが(なにしろ、あらすじによれば、テロリスト、ですから)、復讐は、やはり無関係な第三者を巻き込まないようにしないと、(ことエンターテイメントをめざすミステリとしては)まずいですね。
そしてこの点は、この作品において、100パーセント回避とはいかなくても、緩和することはできただろうと思われるだけに、残念なポイントかと思います。
というのも、田島たち、会社がうまくいくにつれて、揺れるんですね。人間だから、状況が、立場が変われば考えも変わりますよね。そして、揺れることはこの作品では大きな意味を持っています(これは上で触れたひねりに関連するので詳しくは書きません)。だから、その揺れを利用して、復讐の後味の悪さを少しでも緩和させることが可能だったんじゃないかなぁ、と思えてなりません。
そうしても、エンディングの衝撃は薄れることは全くないと思われますし。
ちょっともったいない。

とはいえ、石持浅海らしい凝った作品を楽しめました。

<蛇足>
ところで、ストーリー展開でかなり重要な役割を担う弦巻がどうなったのか、書いておいてほしかったです。



タグ:石持浅海
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