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團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 [日本の作家 た行]


團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

  • 作者: 戸板 康二
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2007/02/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
江戸川乱歩に見いだされた「車引殺人事件」にはじまる、老歌舞伎俳優・中村雅楽の推理譚。美しい立女形の行方を突きとめる「立女形失踪事件」、八代目市川團十郎自刃の謎を読み解く、第42回直木賞受賞作「團十郎切腹事件」など全18編。旧「宝石」掲載時の各編解説をはじめ豊富な資料も併録。ミステリ史に燦然と輝く名推理の数々を完全収録。


歌舞伎役者を探偵役に据えた中村雅楽シリーズです。
講談社版文庫版の「団十郎切腹事件」もその次の「グリーン車の子供」も読んだことがあるのですが、2007年から全集というかたちで創元推理文庫から全5巻で刊行されだしたので、うれしくなって老後の楽しみにとっておこうと思いながら買い込みました。老後の楽しみのはずが、つい気になって2017年10月に引っ張り出して読んでしまいました。
堪能しました!
歌舞伎役者を探偵役にしているだけあって歌舞伎界が舞台になっていることが多いですが、それだからというだけではなく、全体のトーンが典雅というか「大人のミステリ」といった風格になっています。日下三蔵による編者解題では「滋味あふれる老優の名推理」と書かれています。
とはいえ、歌舞伎を知らなくても大丈夫、ちゃんとしっかり楽しめます。

「車引殺人事件」
「尊像紛失事件」
「立女形失踪事件」
「等々力座殺人事件」
「松王丸変死事件」
「盲女殺人事件」
「ノラ失踪事件」
「團十郎切腹事件」
「六スタ殺人事件」
「不当な解雇」
「奈落殺人事件」
「八重歯の女」
「死んでもCM」
「ほくろの男」
「ある絵解き」
「滝に誘う女」
「加納座実説」
「文士劇と蠅の話」
と18編も収録されています。

ミステリデビュー作でもある「車引殺人事件」は、手堅い古典的トリックで(決して陳腐とは言いません!)「菅原伝授手習鑑」の「車引(くるまびき)」の最中舞台上で起きた変死事件を扱っています。
歌舞伎界を舞台にしているだけではなく、「車引殺人事件」同様、舞台上の事件や開演中の事件を扱っている作品が多いのはとても特徴的です。
続く「尊像紛失事件」もそうですし、「盲女殺人事件」、「六スタ殺人事件」、「奈落殺人事件」もそうです。舞台って、いろいろ危険なんですね(笑)。
個人的には「等々力座殺人事件」にびっくりしました。ここで「〇〇〇〇」(ネタバレにつき伏字)をやりますかぁ... 短い中にも割と忠実に「〇〇〇〇」を模したかのような仕掛けが入っていて楽しみました。

あとオリジナルの発表年(1958年~1960年)のおかげもあって時代色豊かなところも読みどころですよね。
「尊像紛失事件」で紙芝居を犯行時刻をつきとめる仕掛けにつかっているのにもニヤリ(ほかにも劇の進行度合いで時刻を特定する話もあちこちにあります)。
時代色とは言えないかも、ですが、「不当な解雇」にはルパシカ(346ページ)が出てきます。ルパシカ? 
ロシアの民族服の一つ。詰め襟,長袖,左前開きで腰丈の男性用上衣。襟や袖口や縁辺には刺繍が施されており,腰帯を締めて着用する。本来,厚地の白麻製で,ウエストを絞らずゆるやかでしかも暖かいのが特色であるが,近年はさまざまな生地が使われる。」らしいです。
「八重歯の女」には「やなあさって(明々後日)」(419ページ)という語が出てきます。こういうんですね。今だと、使っても通じないかも。
それぞれの物語は短いものなので、そんなに細かく詳細には書かれていないですが、数々の小道具(と言ってはいけないのかもしれませんが)で、臨場感たっぷりに時代色も、舞台も伝わってきます。
表題作である「團十郎切腹事件」では直木賞も受賞しています。
昔読んでいたのに、もうすっかり忘れていましたが、「團十郎切腹事件」はタイトル通りの團十郎の切腹の謎を解くだけではなく、ちょっとしゃれたエピソードが加えられていたんですね。こういう小粋なところがポイントかもしれません。
ミステリとして派手さはありませんが、いずれも小技は効いていますし、なによりも世界観がしっかり伝わってくるのが強みだと思いました。
シリーズ全巻買い揃えていますが、老後の楽しみといわず、ときどき取り出して読んでいきたいと思います。



<蛇足1>
「五二七九、二八二三九百、七九三三四、九九六三三四八、八七十三千四百」(410ページ)
というのが「八重歯の女」に出てきます。
「いつになく 庭に咲く桃 なくさみし 心さみしや 花と満ちしを」という歌で、四代目坂東三津五郎の戯作らしいです。すごい。

<蛇足2>
「ほくろの男」に
「都築という珍しい姓を書いた名札が貼ってある」(463ページ)
とありますが、都築ってそこまで珍しい名前ではないような気もします...
ミステリ作家に都筑道夫がいるからかもしれませんが...

<蛇足3>
「吉野君は、一生懸命、やってますがね」(439ページ)と「死んでもCM」に出てきますが、一生懸命...
この作品、初出は1960年なんですが、このころからこういう言い間違いが定着していたんでしょうか...
歌舞伎に詳しく、古典に精通していそうな戸板康二さんをもってして...うーむ、複雑です。




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