月の落とし子 [日本の作家 は行]
<カバー袖あらすじ>
それは人間の進歩を証明する、栄光に満ちたミッションのはずだった――。
新しい時代の有人月探査「オリオン計画」で、月面のシャクルトン・クレーターに降り立った宇宙飛行士が吐血して急死する。死因は正体不明のウィルスへの感染……!?
生き残ったクルーは地球への帰還を懸命に試みるが、残酷な運命に翻弄されて日本列島へ墜落する――致死性のウィルスと共に……。
空前絶後の墜落事故! そして未曾有のバイオハザード! 極限状況の中で、人間は人間自身を救い希望を見出すことができるのか。
クリスティー賞史上、最大のスケールで描かれる超災害ミステリ。
単行本です。
第9回アガサ・クリスティー賞受賞作。
折輝真透の「それ以上でも、それ以下でもない」と同時受賞です。
「それ以上でも、それ以下でもない」を面白く読み終えたので、同時受賞のこの「月の落とし子」も期待して読みました。
結論をいうと、とてもおもしろかったです!
いままでのアガサ・クリスティー賞の中で一番おもしろかったのでは、と思います。
ただ、と但し書きをつけておくと、この作品は広義のミステリであって、たとえば本格ミステリに代表されるような狭義のミステリからは外れています。
でも、面白いんですよ。
ジャンル的に言うと、パニック小説でしょうか。
あらすじや帯には「超災害ミステリ」という聞きなれない惹句が使われていますが(笑)。
各選考委員が絶賛の前半、宇宙でのシーンはいうに及ばず、舞台を地球に、もっと詳しくいうと千葉県船橋市に移してからの後半部分も、とても面白かったです。
致死性のウイルスに見舞われる......
なんだか今のCOVID-19(コロナウイルス)の状況をだぶらせながら読んでしまいました。
実は今の状況に鑑みると、「月の落とし子」の対策、対応は甘いな、と思えるところがあるのですが、この作品を書かれたのはCOVID-19(コロナウイルス)が騒ぎになる前ですから、致し方ないですよね。
だいたい伝染病(感染症)で実際に外出規制などが世界中でこんなにも広範囲で行われるなんて、COVID-19(コロナウイルス)前には想像もつかなかったのですから。
宇宙船が船橋駅前のマンションに墜落する、というのが後半の幕開きですが、そのあとも次々と”不幸な出来事”が襲ってきまして、パニック小説の本領発揮、という感じです。
この作品、問題も多々あるのですが、もう、ほんとにドキドキ、ハラハラ読み進めました。
大きな問題だと思われるところを指摘しておきますと......
この作品の場合「科学的な題材を扱い、科学者を主人公にしているにもかかわらず、キャラクターの描き方が感情に寄りすぎているように感じた。」と清水直樹(ミステリマガジン編集長)が選評で書いているように、あまり科学的ではない行動、意見が散見されます(まず月面での行動が科学者としてはあり得ない......。それがなければ、この作品の事件そのものが発生しない)。
ここに引っかかってしまうと、この作品は楽しめないだろうな、と思います。
一方で、そこがかえって素人的にはわかりやすい行動、見解になっていまして、(大災害ではあるものの)娯楽小説として面白く思った次第です。
だからこその、この甘々なラストなんだろう、と。
この作者の穂波了さん、2006年に「削除ボーイズ0326」 (ポプラ文庫)で第1回ポプラ社小説大賞を受賞してデビューした方波見大志さんなんですね。
「削除ボーイズ0326」 、覚えていないのですが、読んでいます。面白く読んだはずだと思います。
ずいぶん作風の振れ幅が広い作者さんですね。
また楽しみな作者が増えました。
タグ:穂波了 アガサ・クリスティー賞
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