はやく名探偵になりたい [日本の作家 東川篤哉]
<カバー裏あらすじ>
人をイラつかせる無神経な言動と、いいかげんに展開する華麗な(?)推理。鵜飼杜夫は、烏賊川市でも知る人ぞ知る自称「街いちばんの探偵」だ。身体だけは丈夫な助手の戸村流平とともに、奇妙奇天烈な事件解決へと、愛車ルノーを走らせる。ふんだんに詰め込まれたギャグと、あっと驚く謎解きの数々。読めば読むほどクセになる「烏賊川市シリーズ」初の短編集。
現在日本を代表するユーモア本格ミステリシリーズと言ってもよいと思います、東川篤哉の烏賊川市シリーズの短編集です。
「藤枝邸の完全なる密室」
「時速四十キロの密室」
「七つのビールケースの問題」
「雀の森の異常な夜」
「宝石泥棒と母の悲しみ」
の5編収録。
「藤枝邸の完全なる密室」は倒叙ミステリで密室トリックを使って叔父を亡き者にし、鵜飼杜夫と戸村流平により犯人は追い詰められるという流れです。
この追い詰め方は冴えてはいないのですが、密室トリックについて問われた鵜飼杜夫の最後のセリフが効いています。
「そんなもん、僕は知りませんよ。きっとなにか、上手いやり方があったんでしょ――」(念のため色を変えた伏字にしています)
「時速四十キロの密室」は「走行中のトラックの荷台というのは殺人劇の舞台としては魅力的ではある。不可能犯罪をテーマにした百枚程度の短編を書くように依頼されたミステリ作家ならば、喜んでそのような場所を舞台として選ぶことだろう。」(81ページ)と作中に書かれている通りの事件の謎で魅力的です。
ただ、この真相は無理じゃないかなぁ。
「七つのビールケースの問題」はタイトルにもなっているビールケースが利用されるのですが、このトリックは無理でしょうねぇ。
「リアリティ リアリティだって! 君いまリアリティっていった?」
「リアリティなんぞクソ食らえってんだあぁぁぁ――ッ!」(179ページ)
と鵜飼杜夫が吼えていますが、一定のリアリティは確保してほしいところ。
(念のため、このセリフはトリックそのものに対して投げかけられたものではありません)
「雀の森の異常な夜」はなんだか既視感の強いトリックで少々びっくり。しかも、ネタバレになるので詳しくは書けませんが、少々安直な方法で状況を成立させてしまっているのが残念です。
「宝石泥棒と母の悲しみ」は、視点人物がペット(人物ではないですが)という異色作。ちょっとした仕掛けとも相まって、手垢のついたようなトリックも見せ方次第なのだなぁ、と感心しました。
笑いの要素は短編になっても泥臭くいつもながらのテイストです。
今回は短編だからでしょうか、ミステリの要素が空振り気味だったように感じました。
<蛇足1>
「最高の音質が約束された最高の空間の中、大音量で昭和のムード歌謡を聞くのが、喜一郎の最大の趣味だった。」(13ページ)
趣味は人それぞれですが、贅沢ですね。
昭和のムード歌謡で音質を気にする必要はないような気がしますが......
<蛇足2>
141ページに現場周辺の手書きの地図(依頼人が描いたもの)が掲げられているのですが、図版の作成者の記載がどこにもありませんので、作者の直筆だったのでしょうか?
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