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〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件 [日本の作家 は行]


○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者: 早坂 吝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
アウトドアが趣味の公務員・沖らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での、夏休み恒例のオフ会へ。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーの二人が失踪、続いて殺人事件が。さらには意図不明の密室が連続し……。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは? 第50回メフィスト賞受賞作


読了本落穂ひろいです。
手元の記録によると2018年1月に読んでいます。
早坂吝「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」 (講談社文庫)

第50回メフィスト賞受賞作で、「2015本格ミステリベスト10」第6位。
文庫の帯に、「ミステリが読みたい! 2015年版」(早川書房)第1位! と書かれていて、いつもこの早川のベストはこのブログで使っていないのですが一位であれば、と思って確認したところ第7位。
あれっと思って帯をもう一度見たら、(国内篇新人部門)と小さく書かれていました。

ミステリを読んでずいぶん長くなりますが、一番の衝撃作、です。
というより、撃作、というべきかもしれませんが。読者を選ぶ作品ですね。嫌いな方はとことん嫌いでしょう。
早坂吝らしくエロ全開で、軽薄に軽快につづられていきますが、ミステリの骨格はしっかりしっかり忍ばされています。

タイトルが非常に特徴的ですね。
文庫本の表紙は、〇の数がわかりやすくていい。〇は八つ。
文庫本の奥付には「まるまるまるまるまるまるまるまるさつじんじけん」とルビが振られています。
冒頭「読者への挑戦状」が掲げられていて、タイトル当てを挑まれています。〇〇の部分はことわざだと。
(英語だとよいのですが、日本語だと漢字をひらく、ひらかないで文字数が変わってしまうのが気になりますが、これは余計な話)

このタイトル当てという趣向に加えて、ミステリ的側面から言うと、この「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」を特徴づけるポイントがあと2つあります。
厳密にはネタバレになってしまいますが、
特徴2は、孤島が舞台であることの必然性、
特徴3は、物理的な(と呼んでおきます)トリック、
です。
個人的に、特徴2でギョッとし、特徴3で爆笑してしまいました。

これらを成立させるのに、南国モードと通常モードで人格が切り替わる主人公(視点人物)というのがとても重要なポイントとなっています。
南国モードの一人称が俺、通常モードの一人称が僕、という親切設計でわかりやすく、親しみやすい。
入れ替わる113ページとか楽しいですよ。
探偵役である上木らいちは本作が初登場作ですが、初登場シーンからインパクト大。
島へと向かう船の中からすでにエロ全開。さすがです。

特徴2は、あっぱれと言いたくなるような首尾で、きめ細かに手がかり(?) が埋め込まれていて、さらっと読み飛ばしたような箇所が、そういう意味だったのか、とにんまりできます。
今回この感想を書こうとしてパラパラと見返していたのですが、結局ほとんど通読してしまい、あちこちに紛れ込んでいる細かな表現をとても楽しんでしまいました。
この特徴だと、クローズドサークルが成立するのが必然であることに深く感心しました。

特徴2が読者に明らかになった段階で、読者がそれまで想定していた謎解きが一旦ご破算になってしまうところがすごい。
仮面を常につけているという非常に怪しげな特徴を持った登場人物がいるのですが、その段階で読者は「ああ、なるほどねー」とある種のトリックを想定して読み進めると思うんですね。
でも、特徴2が明かされた途端、その想定が吹っ飛ばされてしまう。
この衝撃にはすっかりやられてしまいました。
特徴2のせいで、それまで組み立てていた推理・推測をやり直さなければならない。

その衝撃が冷めやらぬうちに、特徴3が読者に襲い掛かります。
特徴3は、特徴2が明らかになるまではまったく想定外の事象に関連していまして、まさかね。
ただ、特徴3は、個人的には無理があると思います。これ、すぐばれますよ、きっと。
ここで使われる手法には詳しくはないのですが、通常想定される手法とは違う手法が適用されたのだ、と説明されているものの、それでもほかの人が気づかないということはありえないと思います。
見ないようにするのが普通だとはいえ、どうしたって見えてしまうものですし、見えてしまえば違いは明らかだと思うんですよね。ここで使われている手法ではカバーしきれない違いがそもそもある気がします。本当に千差万別ですよ。
でもね、この発想、好きです。爆笑。
犯人のセリフにらいちが突っ込むところ(265ページ)とか、もう最高。
こんなバカバカしいアイデア(褒め言葉です)を作品に仕立て上げるなんて、早坂吝、すごい!!

特徴2から特徴3にいたる衝撃の連打でもたらされる(読者の)感情の起伏は、なかなか得られない読書体験でした。

エロの衣を纏っていなければ本書の成立は難しかったでしょうね。性行為がらみのエロだけではなく、中学生・高校生男子レベルのエロもあります(お嫌な方もいらっしゃるでしょうから、下の<蛇足1>に書いておくことにします)
さらに探偵が犯人を突き止める過程でも、エロは重要なポイントとなっています。
その後の作品も読み進めているところですが、最強のエロ・ミス作家かもしれません(笑)。


<蛇足1>
「俺は顔の傷を見ないよう、実は少しだけ見てみたいという気持ちもあるが、失礼なので絶対に見てしまわないよう、じっと俯いていた。そんな俺の目に皮を被ったペニスが映る。俺のムスコも仮面を着けているのだ。包茎に特段コンプレックスはないつもりだったが、重紀のズル剥けと並ぶと、一流民間企業に就職した大学の同期の手取りを聞いた時のような劣等感が芽生えてくる。右隣に座っている浅川の、同じく皮被りを盗み見て、こんなもんでいいんだと自分に言い聞かせる。」(134ページ)
包茎を気にするシーンって、ミステリではなかなかお目にかかれませんね。
西村京太郎の青春ミステリ「おれたちはブルースしか歌わない」 (講談社文庫)にちらっと出てきたような記憶がありますが、それくらいでしょうか。
しかし、この「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」のすごいところは、こういう部分も謎解きに奉仕している(?)点ですね。

<蛇足2>
「風呂から出て、食堂でメタリックに冷えたコーラを飲んでいると、」(135ページ)
メタリックに冷えた、という比喩表現がいいですね。すごく伝わります。

<蛇足3>
「そこまで先読みしていたとは……。まさかこいつクローズドサークル慣れしている!?
 そっち方面でも経験豊富なのかもしれない彼女は続ける。」(251ページ)
らいちに対する主人公沖健太郎のコメントですが、クローズドサークル慣れ(笑)。
そして「そっち方面」。もちろん「こっち方面」はエロですね。



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