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フォックス家の殺人 [海外の作家 エラリー・クイーン]


フォックス家の殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

フォックス家の殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
故郷ライツヴィルに帰還した戦争の英雄デイヴィー・フォックス。激戦による心の傷で病んだ彼は、妻を手に掛ける寸前にまで至ってしまう。その心理には、過去に父ベイヤードが母を毒殺した事件が影響していると思われた。彼を救うには、父の無実を証明するほかない。相談を受けたエラリイは再調査を請け負うも、当時の状況はことごとくベイヤードを犯人だと指し示していた……名探偵エラリイが十二年前の事件に挑む。新訳決定版。


2023年4月に読んだ4冊目の本です。
「災厄の町」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら)に続くライツヴィルものの第2弾。新訳です。

例によって旧訳版で読んでいまして、メインのパートは覚えている──つもりだったのですが、読んでみてびっくり。
覚えていたのは途中まで。
そのあとの展開をまったく覚えていませんでした。
こういう話でしたか......
原題 "The Murderer is a Fox" が光輝いて見えます。
今の時点から見ればひとつのパターンとして確立しているような話の展開で、ひょっとしてこの「フォックス家の殺人」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)がこのパターンの作品の嚆矢なのか? と読後すぐ思ったのですが、さすがに違いますね。
本書の出版は1945年。このパターンの作品は数多くありますが、たとえばこのブログで感想を書いた中では某海外女流作家の初長編作品は(感想ページにリンクを貼っておきますが、ネタバレなのでご注意)1928年なのではるか前でした。

407ページに、二杯のぶどうジュースに関する原注があるのですが、これ、とても興味深いです。
初版の最初からついていた原注なのか、読者からの指摘を受けての注なのかわかりませんが、重要な指摘です。原注で E・Q が説明を加えていますが、あまり上手な説明とは思えない、正直苦しまぎれに思えますね(笑)。

とミステリ的には若干指摘したいところがある作品ではあるのですが、ぼくが覚えていなかった終盤の展開を含めて、フォックス家という狭い範囲の人間関係の中に、きわめて重層的な物語が構築されているのが素晴らしいと思いました。
そしてこれは、夫婦の物語であると同時に、父と子の物語でもある。
ラストの
「たぶん父親はそのためにいるんですよ、クイーンさん」(463ページ)
というある登場人物のセリフを、エラリーがどう聞いたのか。自分とクイーン警視との間柄の思いを巡らせたのかな、なんて考えながら読むのはなかなか乙なものです。


<蛇足1>
「まるで白馬に乗ったガラなんとか卿だ」(122ページ)
苦境にいるデイヴィー・フォックスを救おうとするエラリーにヴェリー部長刑事がいうセリフです。
ガラなんとか卿?
アーサー王伝説や聖杯伝説の円卓の騎士の1人であるガラハッド卿(英: Sir Galahad)のことでしょうか?
ちょっと謂れがわからないので、この発言のおもしろさが感じ取れませんでした。訳注が欲しかったです。

<蛇足2>
「上半身は寝室用のジャケットに包まれ、髪はリボンで結ばれ、顔は紫の厚いヴェールに覆われていて、」(249ページ)
寝室でジャケットを身につけるんですね。

<蛇足3>
「糸か何かが引っかかっているかと思ったんだがね。それがあれば、女の服か男の服かがわかった。」(270ページ)
糸からだけで、その出所の服の男女別がわかるんですね。

<蛇足4>
「荒らされたもうひとつのものは、壁際に置かれた回転テーブルだった。」(271ページ)
場所は居間なのですが、ここでいう回転テーブルというのは、どういうものでしょうか? 小さな抽斗もついているようです。
回転テーブルというと、つい中華料理店にあるものを連想してしまうのですが、もちろんそれではありませんよね。
天板が回るテーブルって、珍しい気がします。

<蛇足5>
「まさかパリンプセスト(もとの字句を消して別の字句を上書きした羊皮紙)の技を使ったとは!」(358ページ)
パリンプセストには訳注がついていますが、エラリーの発言に対して作中の誰も質問していません。
ということは、この単語、一般的にすっと理解されるほど広まっている単語なのでしょうか?
なんだかすごいですね。


<2024.3追記>
なにも気にせず、Ellery Queen の日本語表記を、エラリー・クイーンと書いてしまっていましたが、早川では、エラリイ・クイーンという表記です。
このブログではエラリー・クイーンと今後も書いていきます。


原題:The Murderer is a Fox
作者:Ellery Queen
刊行:1945年
訳者:越前敏弥






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