SSブログ

葬儀を終えて [海外の作家 アガサ・クリスティー]


葬儀を終えて〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

葬儀を終えて〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/10/15
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
だって彼は殺されたんでしょ?──アバネシー家の当主リチャードの葬儀が終わり、その遺言公開の席上、末の妹のコーラが無邪気に口にした言葉。すべてはこの一言から始まった。翌日、コーラが死体で発見される。要請を受けて事件解決に乗り出したポアロが、一族の葛藤のなかに見たものとは。衝撃の傑作、新訳で登場。


2023年4月に読んだ3冊目の本です。
2020年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年。それを記念した早川書房のクリスティー文庫の6ヶ月連続新訳刊行、
「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「雲をつかむ死〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「メソポタミヤの殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「ポケットにライ麦を〔新訳版〕」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「ナイルに死す〔新訳版〕」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら
に続く第6弾で最後を飾る作品です。日本に帰国して間が空きましたが、ようやく読みました。

この「葬儀を終えて」(クリスティー文庫)を再読するのはとても楽しみだったんです。
というのも、「葬儀を終えて」は、「邪悪の家」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら)と並ぶ偏愛作でして、クリスティーのミス・ディレクションの腕前が存分に発揮された傑作だと思っているからです。
今回新訳で再読してもその印象は変わりません。
綺羅星のような傑作に埋もれがちかもしれませんが、まぎれもない傑作だと思います。

冒頭アバネシー家の系図が掲げられていて、ちょっと臆するのですが、見てみるとかなりの人数が故人で、残っている登場人物たちも夫婦セットになっていて、かつそれぞれ印象的な性格が意識的に与えられているので、そんなに混乱することはありません。
むしろ容疑者が少ないように思えるくらいです。

あらすじにも引用してある
「だって彼は殺されたんでしょ?」(29ページ)
というコーラによる爆弾発言は、やはりとても印象的で、そのあとコーラが殺害されるに至って、この発言が、爛々と光を放ちます。
なんという魅力的なオープニングでしょうか。

弁護士エントウィッスル氏の視点で物語は進み、ポワロが出てくるのは四分の一ほど過ぎたところなんですが、実際にポワロが屋敷を訪れるのは半分ほどのところで、なかなか出てこないという印象です。
いわゆる退屈な尋問シーンが続くように見えないのは、このおかげかもしれません。

この作品の手がかりはクリスティーお気に入りの技ともいえるものなのですが、昔読んだ時は少々不満に感じました。
読者にはわからない点だからです。
今回再読してもその点は変わりませんでしたが、しつこいくらいに「どこかがおかしかった」と強調されているので、フェアに行こうとしていたことが今回わかってよかったです。こんなにあからさまに「どこかがおかしかった」と強調されていたんですね。

個人的に注目したいと思ったのは、人物の出し入れのうまさ。
ポワロの出てくるタイミングもそうですが、ある登場人物が物語に絡むタイミングがやはり絶妙で、ごくごく自然な仕上がりです。

解説で折原一も「クリスティーの中期のみならず、全作品中でも上位にランクされるべき傑作」と推しています。
傑作を再読できてよかったです。
(この折原一の解説は、ちょっと明かしすぎのところがあるので、勘のいい人だと真相に気づいてしまうかもしれません。読後に読まれることをお勧めします)


<蛇足1>
「エッジウェア卿の殺害事件がありましてね。忘れもしない。危うく負けるところだった。ええ、このエルキュール・ポアロがね。何も考えない頭から生まれる単純極まりないずるさに負けそうになりました。ごく単純な頭脳の持ち主は、往々にして単純な犯罪をやってのけ、あとはほったらかしにしておくのです。あれも特殊な才能なのかもしれない」(222~223ページ)
さらっと「エッジウェア卿の死」 (クリスティー文庫)に触れられています。
「葬儀を終えて」が1953年、「エッジウェア卿の死」が1933年の出版で20年前の本がさらっと。クリスティ―自身にも印象的な作品なのでしょうね。

<蛇足2>
「ただ、老弁護士の情報と判断は有益ではあるものの、やはりポアロは自分の眼で確かめたかった。この人たちと会ってことばを交わせば、犯人の目星はつくと思っていたのだ──手口や日時はわからないにしろ(それはポアロにとってあまり興味のない問題だった。殺人が可能であったことさえわかればいい!)。」(298ページ)
ポワロの考えが披露されているのですが、いや大胆。
クリスティーにも手口(トリック)を効かせた作品はあるんですけどね(笑)。



原題:After the Funeral
著者:Agatha Christie
刊行:1953年
訳者:加賀山卓朗








nice!(13)  コメント(0) 

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。