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メソポタミヤの殺人 [海外の作家 アガサ・クリスティー]


メソポタミヤの殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 12)

メソポタミヤの殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 12)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/07/16
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
考古学者と再婚したルイーズの元に死んだはずの先夫から脅迫状が舞い込んだ。さらにルイーズは寝室で奇怪な人物を見たと周囲に証言する。だが、それらは不可思議な殺人事件の序曲にすぎなかった……過去から襲いくる悪夢の正体をポアロは暴けるか? 幻想的な味わいをもつ中近東を舞台にした作品の最高傑作、新訳で登場。


今年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年を記念した早川書房のクリスティー文庫の6ヶ月連続新訳刊行、
「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「雲をつかむ死〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
に続く第3弾です。

この作品は旧訳版ではなく創元推理文庫版で昔読んでいます。
創元推理文庫版のタイトルは「殺人は癖になる」 (創元推理文庫)
「殺人は癖になる」というのは第24章の章題でもありますし、
「わたしは仕事で多くのことを学んできました。そのなかでもっとも恐ろしいのは、殺人は癖になるということです」(207ページ)
という第17章のポワロのセリフでもあります。

この作品、結構印象に残っていまして、珍しいことに、犯人もトリックもしっかり覚えていました。

ただ、今回新訳で読み返してみて、犯人の設定に無理があるなぁ、と思ってしまいました。
どうでしょう? ありですか、これ? 
動機も正直今一つピンとこないというのか、よくわからないというのか......
またトリックも、一種の密室状況で、あざやかに解かれるものではありますが、ちょっと安直かなぁ、とーーたしか、トリックについては、初読のときも、既視感のあるトリックだなぁ、と思っていまひとつ感心しなかった記憶があります。

興味深かったのは、ポワロ(個人的趣味で、ハヤカワの表記ポアロではなく、ポワロと書きます)の相棒がヘイスティングスではなく、看護婦のエイミー・レザランだからか、いつもより丁寧に途中で事件を語ることですね。
もちろん、肝心かなめなことは名探偵の常として内緒のままなんですが、ヘイスティングスに対するときと比べて、ずっと親切仕様になっているように思います。

新訳が出ると、あたらめて読み返すきっかけになって楽しいですね。
(↑ 未読本がたまりにたまっている状況で、再読なんかしている場合ではないんですけれども)


<蛇足1>
本書の邦題は「メソポタミの殺人」であって、メソポタミではないのですね。
一般的には、メソポタミと書きますし、原題も Murder in Mesopotamia で、英語のスペルから判断する限り、メソポタミの方に軍配が上がる気がしますが......

<蛇足2>
「ある作家の著作に、こんな一節がある。“初めから始めるがよい。そして最後に来る前で続けるのじゃ。そうしたら終わればよい”」(19ページ)
ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」 (リンクは大好きな「とびだししかけえほん」に張りました。すごいので一度ぜひご覧ください。)ですね。
どうして明記せずに、ぼかした書き方にしたのでしょうね? 

<蛇足3>
「それに、とても真面目で。考古学のこととかも、何も知らないのでと言って一所懸命学ぼうとしていた。」(253ページ)
いつも無駄を承知であげつらっている「一生懸命」ですが、ここはきちんと正しく「一所懸命」と書いてあります。
もはや正しく書かれていることの方が少なくなってきているように思われるので、新訳版でも正当な表記が守られていることにとてもうれしくなりました。

<蛇足4>
「あの事件のあと、ふたたび東洋を訪れることはなかった。」(394ページ)
語り手であったエイミー・レザランが事件後振り返って言う感想です。
メソポタミアは「東洋」なんですね。
ちょっと日本人の感覚とずれているのがおもしろいですね。
イギリス人の感覚と日本人の感覚がずれている例としては、アジア、があります。
日本人的には、アジアというとぱっと自分たちの国日本を中心にイメージしますが、イギリス人だと(おそらく)アジアと何も装飾をつけずにいうとインドあたりをイメージしているのではないかと思います。日本あたりは「極東(Far East)」ですね。
日本人が見慣れている世界地図と違って、イギリスでよくある世界地図は大西洋が真ん中に据えらえているため、日本はまさに Fa~~r East です(笑)。世界の果て、という感覚かもしれませんね。



原題:Murder in Mesopotamia
著者:Agatha Christie
刊行:1936年
訳者:田中義進






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