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三つの栓 [海外の作家 な行]


三つの栓 (論創海外ミステリ)

三つの栓 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 単行本



2023年5月に読んだ6冊目の本です。
単行本で、論創海外ミステリ199。
ロナルド・A・ノックス「三つの栓」 (論創海外ミステリ)

帯に
ガス中毒による老人の死。事故に見せかけた自殺か、自殺に見せかけた他殺か、あるいは…「探偵小説十戒」を提唱したロナルド・A.ノックスによる正統派ミステリの傑作が新訳で登場!
と書かれています。

まさに書かれている通り、正統派ミステリ。
古き良き本格ミステリの香りが漂います。

探偵役は
「インディスクライバブル社にはお抱えの私立探偵がいる。が、こちらの事実は宣伝されていない。それどころか、社の公式書類においても、”当社の代理人” という呼び方しかされていない。彼は虫眼鏡もピンセットも──拳銃すら携帯しない。注射を打ったりもしないし、愚直な友もいない。それでも彼は私立探偵だった。」(18ページ)
と紹介される、保険会社専属の私立探偵、マイルズ・ブリードン。
「ぼくは椅子に座ったままで事件の謎解きをやってのけるようなタイプの探偵ではありません。」(236ページ)
と自分で言うのですが、トランプゲーム(ペイシェンス)をやりながら真相が脳裏に浮かんでくる、というのですから、安楽椅子探偵の資格も十分な感じがします。

自殺か他殺か事故かわからないガス中毒が事件で、タイトルの「三つの栓」とは、現場である室内にある二つの噴出口の栓とその両方の元となる元栓のことを指します。
謎解きの場面で、244ページ、245ページに二枚の絵を使って説明されるのですが、それでもわかりにくく、解説で真田啓介が説明してくれているのがとてもありがたい。
ただ、この部分は残念ながら後出しじゃんけんっぽい印象をぬぐえません。

それでもブリードンとその妻を中心とする登場人物たちの会話がとても楽しめました。
こういう作品、ときどき読みたくなります。


<蛇足1>
「それから彼はベッドに向かいましたが、あの哀れなモットラム老人が死んでいるのを、そして、その死因を発見するのに二分とかかりませんでした。」(53ページ)
これ、秘書が雇い主であった主人の死を語る場面です。
雇い主を哀れな老人呼ばわりする秘書はいないでしょう。
おそらく poor かそれに類する語が使われているのだと思いますが、形容詞であっても、日本語訳するときには副詞的に、雇い主であることを考えれば「おいたわしいことに」とでも訳すのが適当かと思います。
ついでにいうと、医者が死因を「発見する」というのも日本語として妙です。こちらもおそらく found が使われているのだろうと思われますが、発見するではなく、「気づく」とか「つきとめる」と訳すべきでしょう。
同じページにまだ不思議な日本語は存在します。
「相続人は、夕食の席で申しました地元の方々です。正確に言えば、たったひとりの老子さんということになりますが」(53ページ)
方々と言っておいてひとりとはわけがわかりません。原語を確かめてみたいところです。

<蛇足2>
「そうなったら、フランシス坊やに新しいタモシャンタン帽を買ってあげるお金はどうするの?」(58ページ)
タモシャンタン帽がわからず、調べました。「大き目のベレー帽の頭頂部分に、ボンボン飾りがついている帽子。」のことらしいです。Tam O'Shanter。
タモシャンターではく、タモシャンタンとされている理由はわかりません。

<蛇足3>
「話し方を聞けば大学で教育を受けたことは明白だし、有能であることも確実だった。」(84ページ)
イギリスは未だに階級社会ですし、この本の出版された1927年ではなおさらでしたでしょうから、離し方からいろいろなことが推察されるのは当たり前のことなのですね、きっと。

<蛇足4>
「難問に知恵を絞っているときというのは、たとえば、この自殺問題のようにね、すっかり能の働きが鈍って疲れきってしまうから」(159ページ)
単なる誤植ですが、脳ですね。



原題:The Three Taps
著者:Ronald A. Knox
刊行:1927年
訳者:中川美帆子





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