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100億人のヨリコさん [日本の作家 似鳥鶏]


100億人のヨリコさん (光文社文庫)

100億人のヨリコさん (光文社文庫)

  • 作者: 鶏, 似鳥
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/06/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
貧乏極まり行き場を失くした小磯は、学生課で寮費千三百円という怪しげな「富穣寮」を紹介される。大学キャンパスの奥の奥。そこでは、変人の寮生たちが奇妙な自給生活を繰り広げていた。しかも部屋には、夜な夜なヨリコさんという「血まみれの女」が現れるという。ヨリコさんの正体を解き明かそうとする小磯は、やがて世界の存続をかけた戦いに巻き込まれていく!


2023年8月に読んだ4冊目の本です。
お気に入り作家似鳥鶏の作品。「100億人のヨリコさん」 (光文社文庫)

似鳥鶏ならではの、主人公小磯の饒舌な語りによって、驚くほどボロボロの寮に移り住むことになった小磯が、依子さんと寮生たちに呼ばれている幽霊(?) に遭遇する様子が描かれます。
とすると、この依子さんの死の真相を探るミステリなのかな、と思って読み進めますが、なんと、ミステリではありません。
なんとかして依子さんの身元を突き止めようとし、その死の真相を探ろうとするということには変わりはないのですが、ミステリじゃなかった......
似鳥鶏でミステリ以外の作品って、これが初めてではないでしょうか?

主な舞台となる(と言っていいのでしょうか?)ボロボロの富穣寮(ふじょうりょう)は、「ただいるだけで常識の概念が変容してくる富穣寮では、それくらい念入りに意識していないと『まあ怪奇現象くらいいいか』という気分になってきてしまう」(90ページ)と小磯が思ってしまうくらいの、すごいところです。
ひょっとしてモデルは京都大学の有名な吉田寮ではないかとも思ったりするのですが、さすがに富穣寮のモデルと言われては吉田寮が怒ってきそうです。
依子さんと彼女にまつわる怪異現象を除いても、到底住みたくないな、と思います。名前も不浄とかけているのではないかな?
小道具(?)も恐ろし気なものが揃っていまして、持っている文庫本の帯にいくつか書き出されていますが、医学部の地酒という「銘酒 死体洗い」とか、パンツに生える緑色のおいしい茸「パンツダケ」とか、もう聞くだけで恐ろしい。
住んでいる学生たちも奇人変人揃い。

大学の寮なのに、小学生の子どもが住んでいる(母親と一緒です)、というのもおかしいのですが、このひかりちゃんというのが、まあ、救いと言えば救い。
「将来は無免許医師か悪徳政治家になりたい」(116ページ)
なんていう変な小学生ではありますが。
終盤でも活躍します。
「お見事。コナン君みたいだった」と小磯に褒められても
「コナン君は甘いんだよね。無邪気な子供を装うより、必死で敬語を使ってみせた方が大人は同情するんだよ」(263ページ)
なんて答える、末恐ろしい小学生です。

物語は富穣寮での幽霊騒ぎにとどまらず、どんどん規模が大きくなっていきます。
その意味では読んでいる途中、「戦力外捜査官 姫デカ・海月千波」 (河出文庫)シリーズ(感想ページはこちら)にしてもおかしくないかな、なんて考えていたのですが、着地がミステリではないので、あのシリーズには入れられませんね。

尋常ならざる者(物?)が世界中で溢れ出すという点では、フレドリック・ブラウンの「火星人ゴーホーム」 (ハヤカワ文庫 SF)を連想したりもしましたが、決着のつけ方が大きく異なっている点がポイントですね。
この「100億人のヨリコさん」の決着に不満を持つ方もいらっしゃるとは思いますが、ぼくは非常に説得力のある、納得できる決着だと強く感心しました。

「世界を破壊するスイッチの所在など、他人に教えるものではない。知らずに押してしまう危険と意図される危険を比較すれば、後者の方がずっと大きいからだ。」(320ページ)
なんてさらっと述べられるのも楽しい。
でも、ミステリではなかったんだよなぁ。
ミステリじゃなかったのは(個人的に)衝撃だったなぁ......




タグ:似鳥鶏
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