私立探偵 [海外の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
娼婦ライラのベッドで、ブリーム神父が腹上死した!“やもめで片目でアル中気味”の私立探偵ラルフ・ポティートは、階上に住むライラの頼みを断れず、神父の死体を教会に運ぶのを手伝う。その直後、彼女の部屋が突然ガス爆発。本人は大火傷を負う。事件に巻きこまれたポティートは、教会と神父の謎を追う。
2023年9月に読んだ4作目の本です。
ローレン・D・エスルマン「私立探偵」 (講談社文庫)。
どこから引っ張り出してきたんだ、と言われそうなほど長らく積読していた本です。
奥付を見ると1996年7月の第2刷。同年6月初刷ですからすぐに増刷がかかったのですね。
ローレン・D・エスルマンといえば、ローレンス・ブロックの「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)(感想ページはこちら)に名前が出てきておやっと思いましたね。
さておき、「私立探偵」とはなんともそっけないタイトル。
原題が "Peeper"
解説で木村仁良が書いているように、直訳するとのぞき屋で、私立探偵の卑称です。
なので、原題通りといえば原題通り。でも「私立探偵」というのと「のぞき屋」というのではまったく印象が違いますよね。なにか工夫がほしかったかな。
飲んだくれ、というのはハードボイルドに出てくる私立探偵にはよくある属性ですが、探偵役であるラルフ・ポティートは開巻早々二日酔いを電話で起こされ、階下の売春婦から腹上死した神父の死体隠ぺいを手伝ってほしいと頼まれるという、まあ、卑称にふさわしい登場ぶり。
彼の設定は、まさしく Peeper です。
その点で到底感情移入できませんので、読者はまさしくカメラアイのごとくにラルフの目を通して事件を見守ることになります。
これ、ひょっとして作者の技巧だったのでしょうか?
その後も狂騒が続いて、あまりハードボイルドらしくない展開。
被害者(殺人かどうかもわからないのですが)が神父なだけに教会が絡み、あやしげな教会の使者が出てきて(巻頭にある登場人物表は見ないほうがよいですね)、(だいぶ先まで話を明かしてしまいますが)政府機関とのつながりまで......
ハードボイルドらしくない展開ながら、ハードボイルド風のストーリーに収斂していくところがポイントなのだと思いました。
探偵が卑しき街を行くのではなく、卑しい探偵が街を行くのではありますが。
ミステリとしてみた場合には、ハードボイルド風のストーリーにしたことが長所でもあり、短所でもあり。
ハードボイルドをお好きな方の感想を聞いてみたいです。
<蛇足1>
「亡くなったご亭主のことやピクルズのすごい効能について熱弁をふるいながらな」(72ぺージ)
ピクルス、というほうが一般的ですね。英語の発音的にはピクルズの方が近いと思いますが。
<蛇足2>
「あんた、本当に私立探偵なの? あのスペンサーのような?」
「スペンサーは実在の人物じゃない」(164ページ)
「デイン家の連中には淫蕩な血が流れているんじゃなかろうか? そう、”デイン家の呪い”だ。」(194ページ)
「デイン家の呪い」(ハヤカワミステリ文庫)のタイトルを出すために、登場人物の名前をデインにしたのでしょうか?(笑)
<蛇足3>
「《キャリー》だ。そういえば、スティーブン・キングのホラー小説のタイトルはCで始まることが多いことにいまはじめて気づいた。」(336ページ)
あれ? そうかな、と思いましたが、本書が刊行された1989年当時では、
「キャリー」 (新潮文庫)
「クージョ」 (新潮文庫)
「クリスティーン」〈上巻〉〈下巻〉 (新潮文庫)
の3作でしょうか。
同時期だと、
「呪われた町」 上 下 (文春文庫)(Salem's Lot)
「シャイニング」 (上) (下) (文春文庫)
「ザ・スタンド」 1 2 3 4 5 (文春文庫)
と S も同じだけ出ていますが、”The” の捉え方が微妙ですね。
原題:Peeper
著者:Loren D. Estleman
刊行:1989年
訳者:宇野輝雄
タグ:ローレン・D・エスルマン
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