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冬空トランス [日本の作家 な行]


冬空トランス (角川文庫)

冬空トランス (角川文庫)

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/10/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
少女はなぜ4階のこの教室から飛び降りなければならなかったのか? 撮影不可能な映像はいつどうやって撮られたのか? タイムリミットは一晩。絶体絶命の完全密室から、脱出することはできるのか? 屋上観覧車、校舎、放送室……様々な場所に仕掛けられた難解トリックに “可愛すぎる名探偵” 樋口真由が挑む。文庫書き下ろし「『消失グラデーション』真の解決編」も収録した、横溝賞〈大賞〉受賞作家、真骨頂の学園ミステリ決定版!


2023年9月に読んだ6作目(8冊目)の本です。
長沢樹「冬空トランス」 (角川文庫)

横溝正史賞受賞作であるデビュー作「消失グラデーション」 (角川文庫)(感想ページはこちら)からスタートし、「夏服パースペクティヴ」 (角川文庫)(感想ページはこちら)と続編(?) が書かれたシリーズの第3作で、4編収録の短編集です。
amazon のページに各話の紹介文があったのでつけておきます。
「モザイクとフェリスウィール」
動画投稿サイトで注目を集める天才は、絶対に撮影不可能な、驚異の映像を生み出した。果たしてどのような手段で撮られたものなのか。超難関の挑戦を受けた、遊佐渉の答えは?
「冬空トランス」
少女はなぜ4階のこの教室から飛び降りなければならなかったのか? 状況は手首を切って自ら飛び降りたことを示している。しかし、真由は即座に疑念を呈す――自殺とは思えない。
「夏風邪とキス以上のこと」
完全に閉じ込められた。だが状況は単純だ。縦5m、横4m、高さ3.5mの空間から脱出すればいい。タイムリミットは一晩。追い込まれた真由、決死のリアル脱出ゲームが始まる。
「わがままなボーナストラック」
あの衝撃の消失事件の主役・網川緑の目撃情報が!? 文庫書き下ろしの『消失グラデーション』真の解決編

香山二三郎の解説にもある通り、時系列的には
「モザイクとフェリスウィール」
「夏服パースペクティヴ」
「冬空トランス」
「消失グラデーション」
「夏風邪とキス以上のこと」
「わがままなボーナストラック」
という順番となります。

非常に気を使った書き方がされてはいるものの、それでもこれまでの作品のネタバレにつながりかねない部分は多々あり、かつ登場人物たちの結びつき具合が与える影響がとても大きいので、すくなくとも「消失グラデーション」は先に読んでおいた方がよいと思います。
「消失グラデーション」は極めて優れたミステリなので、この「冬空トランス」 (角川文庫)を読む気がない方でも、ぜひお読みください。

それにしても、「消失グラデーション」で始まった作品世界が、ここまで広がり深化するとは。

「モザイクとフェリスウィール」は、遊佐渉が樋口真由を見つけるまでの話。
映像から突き止める、という、文章ではなかなか難しいところに挑んでいます。
(真由たち登場人物は、渉も含めて映像を嗜んでいるという設定なので、自然な流れではあるのですが)

「冬空トランス」は、シリーズで繰り返し出てきた、樋口真由の転校について、そのきっかけを描いているものと思われます。
この作品で使わているトリック(?)、個人的にイメージがつきづらかったのですが、実際にその現場にいたとすると圧倒されるような気もします。
作中終盤の真由の行動は気持ちはわかるものの行き過ぎだと思いましたが、これも当事者ゆえの感情の爆発で、それほどまでに......ということなのだと理解しました。

「夏風邪とキス以上のこと」は、このトリックというか仕掛けはうまくいくのだろうか? と思いましたが(なんだかんだいっても、学校の建物なんてそんなに緻密には造られていないと思うので。もっとも私立学校という設定なので贅沢に作られているのかもしれません)、放送室のスタジオからの脱出という知恵比べ的な部分はとても面白かったですし、敵役が真由を追い込んでいく手つきは憎たらしいほどで、脱出直後のシーンを想像すると真由の強靭さと屈辱の凄まじさが恐ろしい。
タイトルのキス以上のこと、というのは、渉が真由にキス以上のことを求めたことから来ていますが、途中で、
「更に問題を複雑化させているのは、この程度のことを、遊佐渉が気づかないはずがないということだ。その上で、遊佐は自分を放置している。このまま密室から抜け出せなければ遊佐との約束が果たせなくなる。遊佐はそれを承知で手を出さないのか──ヒカルの仕掛けたゲームに便乗して、本気でキス以上のことを狙っている? 由々しき事態だった。もっと優しく接していればよかったのか?」(291ページ)
というところでは、真由には申し訳ないですが、笑ってしまいました。

「わがままなボーナストラック」は、『消失グラデーション』真の解決編とありますが、ミステリ的な解決編というよりは、物語としての完結編といった趣です。
ワタルの正体を含め、これまでの諸作を微妙にずらしてみせる手際がとても興味深かったです。おもしろい。

シリーズはこのあと出ていないようですが、なんらかのかたちで、また渉、真由たちと出会いたいですね。
このシリーズ、どの登場人物も癖のある、かつ推理力に長けた人物として設定されており、丁々発止的なやり取り含め、読んでいてとても楽しいですから。


<蛇足>
「中を改め、女性の名が椎野小和であることが判明した。」(165ページ)
ルビがふっていないので、「小和」って何と読むのだろう?と思いました。
さわ、とか、こより、とか読むようです(ほかにも読み方はあるようです)。
他の読み方が考えられないようなケースを別にして、人名には初出時にルビが欲しいな、と思ったりしたのですが、考えてみればこの ”消失”シリーズにそれを望んではいけませんでしたね(笑)。








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