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完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻 [日本の作家 は行]


完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻 (ノン・ポシェット)

完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻 (ノン・ポシェット)

  • 作者: 半村 良
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 1998/10/01
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
歴史上、つねに退廃と戦乱の陰に暗躍してきた異能の集団、鬼道衆。彼らは今、徳川政権を混乱、腐敗させるため田沼意次の台頭に加担し始めた。折しも全国に蔓延する大飢饉と百姓一揆の数々。この世に地獄を見せるのが目的か、それらも彼らの陰謀だった。時が満ち、やがて復活した盟主外道皇帝こそ、人類の歪んだ進化を促した創造主か 伝奇文学の最高傑作第二弾!


2023年11月に読んだ7冊目の本です。
半村良の「完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻」 (ノン・ポシェット)
もともと全7巻の妖星伝を3巻に編集しなおして文庫化されたものの巻の二です。
前の「完本 妖星伝〈1〉鬼道の巻・外道の巻」 (ノン・ポシェット)(感想ページはこちら)を読んだのが2022年10月でもう1年以上になるので、話を覚えていなくて入り込めないのではと懸念していたのですが、杞憂でした。
物語世界が堅固なので、忘れていた箇所も、この「完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻」を読みだせば思い出しましたし、なんの違和感もなく世界へ入っていけました。

〈1〉に続き、とても楽しい。

その鬼道たちの話から宇宙人(補陀洛[ポータラカ]と呼んでいます)へ至った話が、さらにさらに進展。
田沼意次の出世とか、一揆の煽動とか、江戸時代を背景とした物語もしっかり語られます。

「神道と対立する鬼道は、本来漂泊をもって暮らしを保っている異民たちの宗教なのである。そのような人々は表の社会から迫害され締め出され、人知れぬ裏道を往還して生きるより方法がない。つまりこの世の裏側に棲むことをよぎなくされているのである。
 そのような立場に追い込まれている人々が、表の世界と変わらぬ仏を信じ、同じ神を敬えるわけもなかろう。彼らの仏は破戒仏であり、彼らの神は鬼の姿で現れざるを得ない。
 逆にいえば、彼らを追ったのはその時々の権力者によって公認された神であり、権力擁護を約束した仏たちなのである。それらの神仏はしだいに彼らの領域へ入りこみ、彼らの生活基盤をなし崩しに奪っていく。それでいて、彼らは鬼だ蛇だとそしられる。実際に鬼の役割を果たしているのは、表の社会で認められている神や仏たちなのであった。」(152ページ)
裏の勢力である鬼道衆の活躍(暗躍?)は続くのですが、このあたり、高田崇史の諸作を思わせますね。

同時に風呂敷はどんどん広がっていっていて、テーマとして、時(時間)が浮上しつつあるようです。

「白視。
 あるは昇月法とも謂う。それこそ鬼道において外道皇帝においてのみ許されるという最高術であった。伝えられるところによれば唐・天竺においては第三の眼とも称されるらしい。
 一種の時間透視術であろう。熟達すれば過去未来の双方を自在に見渡すことができるという。ただしいわゆる千里眼とはまったく別のものである。千里眼とは要するに遠隔三法のうちの遠視に類似し、同一時間における遠隔地の事象を能く視る術である。
 昇月法は時間を超えてしまう。術者は超常感覚の中で白視界を得るという。白視界とは黒白明暗のみの視界である。したがって過去未来の事象は月面の模様のごとく灰絵となって見えるので昇月法と呼ばれている。鬼道によれば、月こそは総ての魔力の源泉であり、鬼のみが住む世界とされている。しかも月ははじめこの世に無く、後に他からこの世に引き移されたものであるとされているのだ。」(194ページ)

こちらの面は日円と青円という二人の僧が読者の一次的な案内役を務めています。

「陽が東から昇り西に沈む。そのひとめぐりを一日ときめ、人の暮らしに都合よく、当分に割ったのがいわゆる時刻だな」
「だがそれはあくまで人の暮らしのためのものだ。時の実体はほかにあろう」
「時によって太陽の位置が変わる。月や星々もだ。そして二度とあとには戻らぬ。草の芽はその太陽の位置の変化のあいだに、それだけふくらんでしまう。人も僅かだが老いる。割れた茶碗は元に戻らない。つまり、これは儂の考えでは、物の変化のことではないか」
「かりに、物のまったくない場所を考えてみよう。そこで果たして時がうつろうであろうか。かりに時がうつろうたとしても、いったい何によってそれをたしかめるのだ」
「儂は思うのだが、星と星の間には、何の物もない空がひろがっているのではあるまいか。風もなく、音もなく、そして熱もない……そこでは物の変化がなく、したがって時は流れていないのだ。」
という日円を受けて
「物の濃い所では、時は早く流れ、物の薄い所では、時は遅く流れるというわけですか」(403ページ)
と答える青円。
作者からは
「たしかに、その議論は幼稚ではあった。しかし、時間の本質については、正しく見抜いているようであった。」(403ページ)
と ”幼稚” といなされてしまっていますが、同時に本質を見抜いている、とされているように、とても頼りになる!

「頌劫(じゅこう)とは」
「劫の偈(げ)である。劫は永遠の時の流れをいう言葉だ。人智の及ばざるもの、先ず劫なりという。劫こそはすべてのもとにして、万物みな劫の内に在る。その夢幻のときについて述べたのが頌劫であると同時に、頌劫は大いなる時そのものを指す場合にも用いられる。また、呪陋とは陋の呪である。陋は極小の時を指し、劫に比する場合卑小なるものをいう。この世のあらゆるものは陋の外にあり、したがってすべてのものは陋の中へよく入ること能わずとされる。すなわち、時には大いなる流れの劫と、飛翔にしてとざされた陋があるということだ。」
「沈時術は劫に支配されたこの世に、極小の時を作り出すわざである。儂の作り出した極小の時、すなわち陋において、時の流れがとまり、儂はそれを利用する。劫の中に、かりそめに時の流れのとまった陋を作り上げるのである。しかし、陋の内で時がとまったからといって、とじこめられた者の時が外界と食い違うということはない。儂の術が解ければ、とじこめられた者は一瞬の意識を失った者の如くに、元の劫の中で僅かに失われた時の経過を奇異に思うにすぎない。」(566ページ)
というのも、物語を理解するうえで重要ですよね。

時間以外の要素についても、日円の洞察力は重要です。
「鬼道は世の本質を不幸としておる。この世は否定さるべきものなのだ。その否定さるべき世において幸福を得ている者には実に大いなる不幸が到ると考えるのだ。」
「仏は欲心を去れと説いている。── 略 ── 心を肉から解脱させるためには、生きる欲すら棄てよと説いているのだ。生きながら生命を否定することは至難のわざだが、仏はその必要を教えている。恐らく仏はこの世の秘密を解明した人なのであろう。その大いなる秘密の扉の向こうにあったものは、たぶん、生命は悪、という原理なのではなかろうか」(692ページ)

この部分は第1巻からくりかえし表れているこの星(地球)のあり方とも関わってきます。
「この星に生を享けてしまった者の悲惨さを考えてみろ」
「殺さねば死ぬ」
「そうだ。この星に生まれたら、他を殺さねば一刻も生きられないのだ」
「だからこの星の者は神を作った」
「憐れだ。全宇宙でも、これほど悲しい命はないぞ」
「あり得ぬ神にすがりながら、なおかつ殺し続けて生きている」(230ページ)

しかし、
「ポータラカでは、この星のことをナラカと名づけているそうです」
 捺落迦。
 地獄の意である。那落迦、那羅柯、とも書き、苦具、苦器と訳している。捺落迦を受苦の処とし、那落迦をその人とする場合もある。(739ページ)
というのは少々ひどいですね。地獄ですか......

物語は加速しており、ワクワク感は維持どころか、拡大しています。
第三部・神道の巻のラストで
「その時すでに、広大な宇宙の一角で、そのような考えをまったく覆す、異常なものが発生していたのであった。
 それは、意志を持った時間、であった。」(403ページ)
なんて、とても気になる地の文があるのに、第四部・黄道の巻で触れられていないし、期待がどんどん膨らみます。


<蛇足1>
「不当に裁く者を儂は裁く。おのれに人を裁くほどの価値があると信じていれば、それは異常人だろう。価値がないことを知ってなお裁くのは、おのれの利益のために違いない。いずれにせよ、人を裁く者こそこの世で最もいかがわしい人間だ。」(98ページ)
”悟った” 蛇上人のセリフですが、印象的でした。

<蛇足2>
「だが、亜空間ならばとうに発見できている。世界線を追跡すれば簡単に割り出せる」(746ページ)
「世界線の解析は可能だ」(748ページ)
「世界線」というのは、現在パラレルワールドのような意味合いで使われていますが( Official髭男dism の「Pretender」にも使われていますね)、もともとは相対性理論から来ている語で、ここでは本来の意味で使われているようです。

<蛇足3>
「ここはその陋の中、薄伽梵(バガボン)と申します」
「薄伽梵。破浄地のことか」
 薄伽梵は婆伽婆とも記し、破浄地と訳すほかに、自在、熾盛、端厳、吉祥、尊貴などの意を与えられ、時には阿弥陀仏の異称とされることもある。また薄伽は徳、梵は成就を意味する。(739ページ)
一瞬 ”バカボン” と読んでしまって、!? となりました(笑)。
井上雅彦の「バガボンド」でも同じことになったなぁ、と思い出して苦笑しました。「



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