聖なる怪物 [海外の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
狂瀾。錯乱。哄笑。老優ジャックが語り出す。退廃と乱行の成功物語を。薬物に溺れ、酒に乱れた半生を。大邸宅のプールサイドにジャックの爆笑が轟きわたる。だが油断は禁物。ジャックの笑いの下にはヤバいものがかくされているのだ……巨匠が《狂気の喜劇》と名づけ、上によりをかけて紡いだ戦慄の長篇。笑ってられるのは途中までだ。
2023年11月に読んだ9冊目の本です。
ドナルド・E・ウェストレイクの
「聖なる怪物」 (文春文庫)。
またもや古い本を積読から引っ張り出してきました。
奥付を見ると2005年1月10日。20年近く前ですね。
このブログを始めてからウェストレイクの感想を書くのは初めてですね。
タッカー・コウ名義の悪党パーカーシリーズは1冊しか読んでいませんが、ウェストレイク名義の作品はドートマンダーシリーズはじめ文庫はかなり読んできていますし、木村仁良による解説で楽屋落ちと呼べる ”ウェストレイキズム” として紹介されているリチャード・ホルト名義の「殺人シーンをもう一度」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)も読んでいます。
ちょっと意外でした。
タイトルの「聖なる怪物」というのは、主人公(で、ある意味語り手)である俳優ジャックのことを一人の妻が評するセリフ(198ページ)からです。
「いろいろな面であなたは怪物、飽くことのない乳児期の表れよ。それと同時に、神聖な愚者、聖なる怪物、現実のきびしさに影響されない純真な人なの。あなたは英雄になれる。信じられないほどの強いものの、あなたがどれほど脆弱なのかは、わたしでさえもわからない」
物語は、ジャックの視点から、インタビューされているシーンと、その回答と思われる回想シーンで主につづられます。
それとは別に幕間というインダビュアーの視点のようなシーンがたまに挿入されます(最初に出てくるのが104ページ)。
狂騒に満ちた映画界の様子を、一人の薬に溺れた映画スターの目を通して回顧する、という枠組みの物語のように見受けられます。
幕間に至るまでもなく、この枠組みにそこはかとなく違和感を感じるようになっています。
引用したあらすじでは「笑ってられるのは途中まで」と書かれ、解説では ”衝撃的かもしれない結末” と書かれているその結末に、今回なぜか見当が早々についてしまいました。
別段結末を予想させるような狙いの作品ではないと思われますが、きちんと手がかりとなるようなエピソードがちりばめられているのがポイントで、そのせいでわかりやすくなっていると思われます。
ラストで意外だ、あるいは衝撃的だ、と思われる方も、ああ、あのシーンはこれを匂わせていたのだな、と思い当たるところがあると思います。
面白かったです。
この物語、ジャックとは別の人物の視点から綴るとどうなるのだろう、という興味もわきました。
原題:Sacred Monster
著者:Donald E. Westlake
刊行:1989年
訳者:木村二郎
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