SSブログ

先導者 [日本の作家 は行]


先導者 (角川ホラー文庫)

先導者 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 小杉 英了
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/10/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
15歳のとき、ある組織から「先導者」として認可された“わたし”。死者に寄り添い、来世でも恵まれた人間として転生できるように導く役割を託されていた。突然の命令に戸惑いながらも、寡黙な世話人、曾祢(そね)の献身に支えられ、“わたし”は過酷な訓練を積んでいく。そしてついに最初の任務を果たすときが来たが……。葛藤しながら生きるひとりの少女の自我の芽生えを、繊細かつ鮮烈に描いた、第19回日本ホラー小説大賞大賞受賞作!


2023年12月に読んだ7冊目の本です。
第19回日本ホラー小説大賞短編賞受賞 小杉英了「先導者」 (角川ホラー文庫)

ホラーはあまり得手ではないのですが、独特の世界観に引き込まれました。
と、伴名錬の「少女禁区」 (角川ホラー文庫)感想と同じ書き出しになってしまいましたが、しっかり構築された世界観に浸れます。

描かれているのは、死後の世界、というか、死んだ直後の世界。
当然ながら死後の世界など想像するしかないわけですが、きわめて想像しがたい世界。
それが作者の手によってとてもリアルに感じられます。
語り手を務めるのは、死者たちを恵まれた来世へと導く役割を担う先導者である ”わたし”。
この ”わたし” が少女という設定なのが大きなポイントになっています。
死者そのものではないけれど、死の仕組みを目の当たりにする先導者という設定が秀逸。

死後の世界と同時に、先導者たるべく研修を受ける先導者の様子や、その日々の暮らしが描かれることで、リアルなはずのない設定がリアルに感じられます。
先導者をめぐる世界も周到に設計されていまして、物語の最終盤で明らかになる設定に到着したときには、本当に感じ入りました。

気になる点をあえて挙げるとすると、宗教に触れた部分でしょうか。
死生観というのは、宗教観へとつながりやすいもので、わかりやすくしようと書き込まれたと思うのですが、宗教という枠組みなしでも、死後の世界を構築しきった世界観をこの作品は持っているので、いらないのでは? と感じました。

「古の時代、人間社会における道徳の源泉は、宗教が教える死後の公正なさばきにありました。それが、この世を生きる人間の規範になっていたのです。
 たとえば仏教なら因果論と六道輪廻の思想、ユダヤ=キリストきょう及びイスラム教なら神の戒律と審判などがその典型で、人は己を超えた大いなる法(ダルマ)や存在の厳正極まるさばきを畏れて、日々の振る舞いを律してきたのですが、時代が下がるにつれて、宗教は形骸化し、人々の信仰心は薄れていきました。
 現代になるともう、神も仏も心から信じる人は稀になり、誰もがみな、人間は死んだら終わりで、死後の世界など抹香臭い連中がしがみつく旧弊な妄想にすぎない、とひていするまでになったのです。
 しかしながら、この世を生きる人間の死後の世界に対する信念なしに、あの世が独立して存在するのではありません。死後の世界というものは、この世を生きる人々の真摯な信仰を礎石にして成り立っていたのです。
 それ故、近代以降、現実に生じたのは、文明化された人々の心の中で死後の世界が崩壊する、そのプロセスとまったく軌を一にした、死後の世界の全面的な零落でした。信仰を捨てるとは、すなわち、その人にとっての死後の世界を、まさに現実において破壊することだったのです。」(140ページ)
非常におもしろい着眼点で、死後の世界と現世が相互に影響しあうのはとても興味深いのですが、その前段、人類は宗教を旧弊な妄想として切り捨てた、というところには疑問を感じざるをえませんでした。
あくまで個人的な感想ですが、日本はかなりこう書かれているような状況になっているとは思いますが、世界的にみてこう言い切れるかどうかは疑問なのでは、と思ってしまいます。
このあたりはもう少し用心深く記述してもらえるとよかったのにな、とは思います。

とはいえ、気になったのはこれくらいで、圧倒的な死後の世界の存在感に浸りきることができましたし、少女の成長物語が、この死後の世界の崩壊とリンクし、作者が用意した世界を打ち破る動きへと向かうラストは、さまざまな感情の入り混じった、複雑な読後感をもたらしてくれます。
いい作品を読んだな、と思いました。



<蛇足>
「人が何をどう信じようとそれはそいつの勝手で、あたしの知ったこっちゃない、あたしのいったことをまるまる信じる阿呆もいれば、あたしの説いた処世術を実践して、もしもの場合を考えて別な道を用意しておく賢児もいるということさ、と高笑いです。」(154ページ)
賢児には "かしこ" とルビが振ってあります。
"かしこ" を漢字でこう書くというのは存じ上げませんでしたが、久しぶりに "かしこ" という語を聞いた(見た?)気がします。
驚いたことに、漢字の変換で、賢児とでるのですね。






nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。