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吉祥寺の朝日奈くん [日本の作家 な行]

吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2012/12/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
彼女の名前は、上から読んでも下から読んでも、山田真野(ヤマダマヤ)。吉祥寺の喫茶店に勤める細身で美人の彼女に会いたくて、僕はその店に通い詰めていた。とあるきっかけで仲良くなることに成功したものの、彼女には何か背景がありそうだ…。愛の永続性を祈る心情の瑞々しさが胸を打つ表題作など、せつない五つの恋愛模様を収録。


「百瀬、こっちを向いて。 」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続く中田永一の第2作、とこういう書き方でよいのでしょうか?
中田永一は、乙一の別名義ですし...

表題作のほかに
「交換日記はじめました!」
「ラクガキをめぐる冒険」
「三角形はこわさないでおく」
「うるさいおなか」
が収録されています。


冒頭の「交換日記はじめました!」は、ちょっとこちらと波長が合わなくて、少し心配になりましたが、そのあとの作品からはすっと世界に溶け込めました。

「ラクガキをめぐる冒険」は十四歳のときのできごとを八年後に振り返って行動を起こす主人公・桜井千春の物語ですが、遠山くんまでたどり着く道筋も、十四歳の時のエピソードも、効果的な小道具である油性マーカー・マッキーも、そしてラストのサプライズ(というほどでもなく、予想された結末ですが)も、ピタリと、中田永一(乙一)ならこうでなくちゃ、と思えました。

「三角形はこわさないでおく」も素敵で、この三角関係の当事者になりたいくらい。
でも、ぼくだったら、当事者になってしまったらさっさと三角関係をこわしてしまいそうですけどね。

「うるさいおなか」はお腹が鳴ってしまう少女、という主人公の立ち位置が気の毒ですが、そこにするっと入り込んでくる春日井君のすばらしさにしてやられてしまいます。
ラストの「同じような変態が身内にもいたというのがまずおどろきであり、」(224ページ)で笑ってしまい、続けて書かれている「日本も、もうだめか、と感じた。」のくだりでは爆笑してしまいました。

表題作でラストを飾る「吉祥寺の朝日奈くん」は、タイトルにもなっている朝日奈くんが主人公で視点人物・僕、です。
この朝日奈くん、住むところに困っているという話をすると新しいバイト先でしりあった女の子から、簡単に「うちに来なよ」と告られるような人物で、「顔、きれい」とかルックスがいいとかハンサムとか言われる人物です。自分とまったく異なる境遇の人物なのですが、しっかりしっかり感情移入できてしまいました。
そして中田永一なら、というより、乙一ならお手のもののひねりに、どっぶり浸ることができました。
ラストで朝日奈くんのモノローグでの感慨は、いつまでも味わっていたいな、と思えるものでした。


「百瀬、こっちを向いて。 」感想に書いたコメントをここでも繰り返しておきます。
やっぱり乙一、いいですね。
中田永一名義の作品も、さらに別名義の作品も追いかけていきたいです。



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