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れんげ野原のまんなかで [日本の作家 ま行]

れんげ野原のまんなかで (創元推理文庫)

れんげ野原のまんなかで (創元推理文庫)

  • 作者: 森谷 明子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/09/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
新人司書の文子がこの春から配属されたのは、のんびりのどかな秋葉図書館。ススキ野原のど真中という立地のせいか利用者もまばら、暇なことこのうえない。しかし、この図書館を訪れる人々は、ささやかな謎を投げかけてゆく。季節のうつろいを感じつつ、頼もしい先輩司書の助けを借りて、それらの謎を解こうとする文子だが……。すべての本好き、図書館好きに捧げるやさしいミステリ。


辺鄙なところ(失礼!)にある秋葉市の図書館の分館を舞台にした日常の謎もののミステリです。
ミステリ味は極薄ですけどね。
第一話 霜 降--花薄
第二話 冬 至--銀杏黄葉
第三話 立 春--雛支度
第四話 二月尽--名残の雪
第五話 清 明--れんげ野原
の五話収録の連作短編です。
風流なタイトルが並んでいていいですね。

そうなんです。
この作品、雰囲気を味わうもの、という気がしました。ミステリとしては期待せずに。
大崎梢が解説を書いていまして、これが見事な解説です。
買おうかどうか迷っておられる人がいらっしゃったら、ぜひ解説を読んで検討されるとよいと思います。

本を愛するすべての人へ贈るハートフルミステリと帯に書いてあるのですが、本好きには悪い人はいない、とでも言いたいかのように、本当に悪い人は登場しません。
ぬるい世界ではありますが、そのぬるさが心地よいというか、そういうぬるさに浸りたいときありますよね? それにぴったりなんです。
シリーズは続いているようなので、またぬるさが恋しくなった時に読みたいな、と思います。

レギュラー陣以外の登場人物の印象がさほど強くないのがちょっと気になりますが、そんななか第二話に出てくるおばあさま深雪さんは強く印象に残っています。




<蛇足1>
「問い合わせの中でさりげなく、リストのほかの名を(用心深く名字だけ、だが)持ち出しても、六人ともに、知らないと言い切っていた。」(149ページ)
さらっと書いてあるのですが、まったく無関係な人の名前を「さりげなく」五人分持ち出して知人かどうか聞くなんて、いったいどうやったんでしょう??
ミステリ味の薄い日常の謎系とはいえ、ミステリがこういう部分をおろそかにする、というか、あっさり片付けてしまうのはちょっといただけない気がします。

<蛇足2>
第三話に隣町に住んでいる人が図書館を利用できるように、自治体同士で図書館協定を結ぶ(結ぼうとする)という話がでてくるのですが(170ページ)、自治体の図書館って、住んでいる人だけではなく、そこで働いている人も使えるようになっているのが普通のような気がするのですが、違いましたでしょうか? もしそうであれば、このストーリーで取り上げられている事象に対しては図書館協定いらないのでは? とそんなことを考えました。



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ドラマ:侵入した死体 [ドラマ ジョナサン・クリーク]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD


「奇術探偵ジョナサン・クリーク」の第2作目「開かない箱」(Jack in the Box)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)を観てから2ヶ月ぶりになりますが、第3作「侵入した死体」(The Reconstituted Corpse)を観ました。

今回も英語の字幕をつけてみましたが、それでもわからない部分がいっぱい。
それでも十分ミステリとして楽しめる内容でした!

今回の「侵入した死体」もかなり強烈な不可能犯罪を扱っています。
マンションの入り口のところでは空っぽだったワードローブ。それを4th Floor (日本風にいうと5階ですね)まで階段で運んで部屋に据え付けたら、中に死体が入っていた!

すごいですよね。
しかもそのマンションに住んでいるのが、ジョナサン・クリークとコンビ(?) のジャーナリストのマデリン、というのがまた素晴らしい。

ちょっと苦しい謎解きだな、と思ったのですが、それでも、この設定だと途中で死体が入ったのなら、重さが大きく変わるので途中で変だと運んでいる間に気づくのでは? という疑問に見事に応える回答でしたし、このシリーズの不可能犯罪にかける意気込みはステキですね。

小道具としてビデオテープが使われるのですが、これもなかなか印象的です。
ビデオの内容もさることながら、撮影者をめぐる考察とか、その行方とか、なかなか重要なポイントを1つの物的手がかりがいくつも果たしていくのはよくできているなぁ、と。

このシリーズ、いろいろとわくわくします!

前回同様「The Jonathan Creek homepage」という英語のHPにリンクを貼っておきます。
第3作「侵入した死体」(The Reconstituted Corpse)のページへのリンクはこちらです。
ただし、こちらのHP、犯人、トリックも含めてストーリーが書いてあるのでご注意を。写真でネタばらしをしていることもあるので、お気をつけください。


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象牙色の嘲笑 [海外の作家 ま行]

象牙色の嘲笑〔新訳版〕(ハヤカワ・ミステリ文庫)

象牙色の嘲笑〔新訳版〕(ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ロス・マクドナルド
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/04/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
私立探偵のリュウ・アーチャーは怪しげな人物からの依頼で、失踪した女を捜し始めた。ほどなく、その女が喉を切り裂かれて殺されているのを発見する。現場には富豪の青年が消息を絶ったことを報じる新聞記事が残されていた。二つの事件に関連はあるのか?  全容を解明すべく立ち上がったアーチャーの行き先には恐ろしい暗黒が待ち受けていた……。錯綜する人間の愛憎から浮かび上がる衝撃の結末。巨匠の初期代表作、新訳版。


ロス・マクドナルドの2016年に出た新訳です。
リュウ・アーチャーものの第4作。
(創元推理文庫では、表記はリュー・アーチャーです。)

ずっとこの作品のタイトル、「象牙色の嘲笑」ではなく、象牙色の微笑だと思っていたんですよね。なぜだろう?
象牙色の微笑にせよ、象牙色の嘲笑にせよ、どういう意味なんだろな、と思うところですが、作品の中では、117ページに出て来ます。
「懐中電灯の光が死の象牙色の嘲笑を照らし出した」
これは、リュウ・アーチャーが医者の家に忍び込んで家探しをしている最中に見つけた骸骨の描写です。
なかなかいい感じのタイトルですよね。(間違って記憶していた人間が言うセリフではないかも、ですが)

読み終わって、すごく複雑なプロットだったことに驚きました。すごく入り組んでいる。
ロス・マクドナルドはハードボイルド派に属する作家ですが、しっかり謎解きミステリを成し遂げようとしていたんですね。

そして、怪しげな依頼人ユーナに始まって、捜索の対象となるルーシー、その恋人のアレックス、その母親アナ、”象牙色の嘲笑”を保有する医者ベニングにその妻ベス、行方不明の金持ちチャーリーに、その母親で名士のミセス・シングルトン、ミセス・シングルトンに仕えるシルヴィアと登場人物がいずれも印象的に描かれています。
そんなに分厚い本ではないのに(本文は375ページまで)、ずっしりとした読みごたえを感じるのはそのためでしょう。

興味深かったのは、捜索の対象で被害者のルーシーよりも、犯人の方がしっかり描かれていること。
被害者にもっともっと力点を置くと、もっともっと現代っぽくなったのかもしれませんね。
このあたりも、ちゃんと謎解きをやっておこうという意志表明だったのかも。

トーンが全体的に暗いのが気になりますが、ロス・マクドナルドのほかの諸作も読みたいな、と思いました。
じゃんじゃん復刊をお願いします。


<蛇足1>
「日本風の赤いパジャマを着た彼女は女というより、性別のない小鬼が地獄で年老いたような感じだった」(91ページ)
なんだかひどい言われ様ですが、日本風の赤いパジャマって、どんなのなんでしょうね?

<蛇足2>
「奥さんはイゼベルだったんですよ」(213ページ)
偶然ではありますが、直前に読んでいたのが「ジェゼベルの死」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)だったので、おやっと思いました。


原題:The Ivory Fein
作者:Ross McDonald
刊行:1952年
翻訳:小鷹信光・松下祥子







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ジェゼベルの死 [海外の作家 は行]

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

  • 作者: クリスチアナ・ブランド
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1979/01
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
〈おまえは殺されるのだ〉 素人演劇の公演を前に、三人の出演者に不気味な死の予告状が届く。これは単なる嫌がらせか。やがて舞台をライトが照らし出し、塔のバルコニーに出演者の一人、豊満な肉体を誇る悪女ジェゼベルが進み出る。その身体が前にのめり、異常なほどゆっくりと落下した。演者の騎士たちが見守る”密室状態”の中で……。現場にいたコックリル警部は謎を解けるのか? 本格推理の限界を突破する圧巻のミステリ


再読です。
本格ミステリの傑作です。
一時期、人に貸しまくって布教活動を行っていたことまであります(笑)。
ふと、読み返したくなって改めて購入しました。

読み終わって、やはりすごい作品だなぁ、と感動しました。
印象的なのは「それこそカーやチェスタトンも蒼くなるような悪魔的発想のトリック」と解説で山口雅也が書いているトリックで、そこがもともと強く記憶に残っていたのですが、読み返して気づいたのは、そのトリックをくどくどと説明していないこと。
さっと匂わすというか、登場人物や読者に察しをつけさせるように書かれています。
ここがすごい。
不可能だと思われた状況が、このトリックで鮮やかに説明されるようになっている。でもそのトリックをつまびらかに説明はしない。
そしてこのやり方(明かし方)がこのトリックにはとてもふさわしいんですよね。
鮮やかな印象を深く深く、読者に刻み付けることに成功しています。
トリックの使い方もとても考えられています。
これと同じトリックを使った作品がこの後何作も書かれていますが、使い方、隠し方はこの作品が一番うまいように思います。

推理合戦、というか、自白合戦になるところもおもしろいですよね。
一種の多重解決ものといえる趣向になっています。
そしてその推理合戦が、程よいミスディレクションにもなっている。さすがはミステリ巧者のブランド。
登場人物が少なく、したがって容疑者も少ないというのに、読者に見当をつけさせない。お見事!
(おまけですが、250ページで披露される推理には思わず笑ってしまいました)

今回あれっと思ったのは、コックリル警部のキャラクター。
なんか、いやな奴みたいに感じてしまいました。その分、人間くさい、とも言えますが。
また、名探偵、という感じでもない。
この人、結局のところ、事前に真相にたどり着いていたのでしょうか? 
なんだかうまく騙された気がします。

「ジェゼベルの死」と同じくらい大好きな「疑惑の霧」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)も復刊してくれないかな。
読み返したいですね!
「ジェゼベルの死」の種明かしのシーンも強烈ですが、「疑惑の霧」 の種明かしのシーンでは文字通り、「ぎゃっ」と叫んで居ずまいを正してしまったくらいですから。



<蛇足1>
「ホッケーやラクロッスなどは教えてくれないが」(39ページ)
とあって、おやっと思いました。
原書は1959年刊行ですが、そのころからラクロスってあったんだ、と思ったからです。
でも、これはこちらが不勉強なだけで、ラクロスという競技自体はずいぶん古くからあったんですね。

<蛇足2>
「ハンプステッドに着く頃には」(153ページ)
今だと、ハムステッドと表記しますね。
「ケンジントン上通りに」(224ページ)
これは、ケンジントン・ハイストリートのことでしょうねぇ。

<蛇足3>
「この展示会の会場のどこよりも、衛生施設がいくらかましだということだけだった。」(178ページ)
衛生施設? なんでしょうね? 原文を確認してみたいところです。

<蛇足4>
「年がら年中、“すばしこい茶色の狐がなまけものの犬にとびかかった”と打つ必要はないんですからね」(187ページ)
なんか懐かしかったですね。
The quick brown fox jumps over the lazy dog
アルファベットの26文字を全て使った作った文章で、タイプライターなどの試験、試し打ちなどで使われていた文句です。
同じ文字が何度か使われますので、その点では、日本のいろは歌の方が断然優れていますね!
訳注がついていませんが、訳された当時は日本でも常識的な事項だったのでしょうか?


原題:Death of Jezebel
作者:Christianna Brand
刊行:1949年
訳者:恩地三保子


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絶海ジェイル Kの悲劇’94 [日本の作家 は行]


絶海ジェイル Kの悲劇’94 (光文社文庫)

絶海ジェイル Kの悲劇’94 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/01/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
先の大戦中、赤化華族の疑いをかけられ獄死したはずの祖父・清康が生きている。そう聞かされた天才ピアニストのイエ先輩こと八重洲家康は、後輩の渡辺夕佳とともに絶海の孤島・古尊島(ふりそんとう)を訪れる。だがそこは厳重な一望監視獄舎(パノプティコン)を擁する監獄島であり、思いもよらない罠が二人を待ち受けていた。家康は50年前の祖父と同じ方法で、命をかけた脱出劇を再現できるのか!?


「群衆リドル  Yの悲劇’93」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾で、今回は孤島もの、というか、監獄もの、というべきでしょうか?
八重洲家康は、渡辺夕佳とともに囚われとなり、50年前に祖父たちがどうやって脱獄を成し遂げたのかを、同じような状況を体験しつつ探り、同様に脱獄する、というお題です。
そのさなかに連続殺人も起こる、と。

古野作品を読むのは3冊目で、こちらもずいぶん慣れてきたものの、まだまだ読みにくさは健在です。
「藩屏」(195ページ)なんて辞書引かないと意味わかりませんし、「リタルダンド」(160ページ)も知りませんでした。「給金」に「しんしょう」(256ページ)とルビが振ってあるのはいいとしても、「しんしょう」が普通はどんな字で書かれてどういう意味かがわかりません。「載歩譲って」(137ページ)なんて検索しても出てこないですし......
こういう独特の字遣いを別にしても、文章自体が馴染みにくくできています。

読みにくいのを我慢して読み進んで得た答えが、この作品の場合、ちょっとねぇ......
これは反則というか、大きく期待外れというか......
脱獄したのが、貴族の頂点である公爵で、お金持ちだった、ということだから致し方ないのかもしれませんが、この方法には正直がっかりです。
そうですねぇ、たとえて言うなら、知恵の輪を力まかせに壊して外してしまう、みたいな感じでしょうか?
もっともミステリで脱獄ものといえば、フットレルの「十三号独房の問題」だと思いますが、それに照らして考えれば、当然のトリックなのかもしれませんが....(そういえば、「十三号独房の問題」にもがっかりしたなぁ...)
細かい部分を支える数々のトリックも、鮮やかさに欠けるというか、切れ味を感じないんですよね...むしろ、ずるい、という印象だけが残ったような。

と、くさしてしまいましたが、古野まほろには何かある、何かやってくれる、という期待感はかえって強くなった気がします。
作者の術中にしっかりはまった、ということかもしれませんね....









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大英博物館:マンガ展 [イギリス・ロンドンの話題]

British Museum.jpg

大英博物館で5月23日から8月26日までの期間で開催されている特別展「Manga マンガ」に行ってきました。
上の画像は大英博物館のHPから拝借しました。

かなり話題になっていまして、大英博物館の特別展の中でも大入りなのだそうです。
土曜のお昼ごろにブラっと行ったら、チケットは売り切れ。翌日日曜日の午後一番のチケットがそのとき手に入る中で一番早い時間のもので、それを買って翌日再訪しました。

こちらのTVでも紹介されていまして、学芸員のかたが
「日本以外で開かれる中では最大規模で、これを観に行けば、マンガの読み方から歴史からなにからなにまで、すっかりわかるようになるんだから素晴らしいな展覧会よ!」
と力強く言い切っていました。

特別展の展示室にはいると、

DSC_0018 BM.jpg
あれ? いきなりアリス。これマンガじゃないよな、と思いましたが、これはマンガを外国の方に身近に感じてもらうための仕掛けなのでしょうね。

外国人向けにマンガの読み方とか歴史とかが示されていたり、編集者のインタビューがあったり、とマンガを文化的に捉えようとするところが面白かったですね。
マンガの読み方(コマをどのような順で読むか、など実務的なところです)は、日本人はあまり意識せずにいるところなので、改めて解説されると新鮮です。
鳥獣戯画とか河鍋暁斎とかもマンガの文脈でとらえられているのも、なんだか興味深かったですね。

展示の中心は原画とマンガ家のインタビューの抜粋でしょうか。
(一部を除いて写真撮影可でした)

DSC_0019 BM.jpg
原画の方は、英文を「浮いた」かたちで処理してあるので、ガラスの下に日本語の手書きの部分がのぞけて楽しい。

インタビューは下のような形で抜粋されています。

竹宮恵子さん
DSC_0028 BM takemiya.jpg

萩尾望都さん
DSC_0030 BM Hagio.jpg

諸星大二郎さん
DSC_0058 BM Moroboshi.jpg

井上雅彦さんは写真じゃなかったですね(笑)
DSC_0038 BM Inoue.jpg
井上雅彦さんの描きおろし?のポスターもあったのですが、それは撮影禁止でした。すごくカッコよかったので撮りたかったのですが。
描かれているところを映したビデオも上映されていました。

進撃の巨人のオブジェもありました。
DSC_0045 BM Titan.jpg


これはこれでおもしろいな、と思いはしましたが、どうでしょうか。
展示会としてみたとき個々の作品は掘り下げ不足になってしまっているので、なんだか中途半端な印象を受けました。
これで19.5ポンド、というのは高すぎるような...

もっとも何ページ、あるいは何巻にも及ぶマンガを展示という形式で見せるのは限界がありますし、マンガ(というもの)を紹介する、というのならこういうかたちでいいのかもしれません。
ただ、ストーリー展開とかキャラクターとか、読者がどこに興味を惹かれて読んでいるのか、そのあたりの解説もあってよいのでは、と感じました。
また、日本では様々な種類の膨大な量のマンガがあるというところが、それほど伝わらない気もしました。

おすすめ、と言い切る自信はないですが、マンガをどのように受容しようとしているのかを伺うにはかなり興味深い体験でした。



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MEMORY [日本の作家 本多孝好]

MEMORY (集英社文庫)

MEMORY (集英社文庫)

  • 作者: 本多 孝好
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/09/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
葬儀店のひとり娘に産まれた森野、そして文房具店の息子である神田。同じ商店街で幼馴染みとしてふたりは育った。中学三年のとき、森野が教師に怪我を負わせて学校に来なくなった。事件の真相はどうだったのか。ふたりと関わった人たちの眼差しを通じて、次第に明らかになる。ふたりの間に流れた時間、共有した想い出、すれ違った思い……。大切な記憶と素敵な未来を優しく包みこんだ珠玉の連作集。


このあらすじ、書きすぎだなぁ......
さておき、この本、出ていることを完全に見逃していて、今年に入って気づいて慌てて買ったものです。本多孝好の本なら、絶対、ですから。
とか言いながら、うかつなことに、
「MOMENT」 (集英社文庫)
「WILL」 (集英社文庫)
に続く連作短編集だということに、この感想を書く時点まで気づいていませんでした。
タイトルの付け方、というか、佇まいというかが、「MOMENT」 「WILL」 に似てるなぁ、出版社もみんな集英社だしなぁ、と思っていながら......耄碌してきました。
シリーズ、というわけではありませんが、登場人物やエピソードが共通している部分があるそうです(もう前の2冊をすっかり忘れてしまっているし、現物も手元にはないので、確認できません...)。
だから、かもしれませんが、きわめて本多孝好らしい作品になっており、手触りというか雰囲気がなんだか懐かしかったですね。

いつもながら、うまいなぁ、と本多孝好には感心するのですが、この作品もそうです。
森野、神田というのが主役級の人物なのですが、この「MEMORY」 (集英社文庫)では脇役なんですよね。
いや、この説明は違いますね。
彼らは視点人物にはならないので、主役ではないように思えますが、脇から眺められるだけで、主役は森野と神田だと思いました。
もちろん、エピソード、エピソードには視点人物がいて、彼らが主役なわけですが、すべてのエピソードを通して、森野と神田の物語が伝わるようになっている。
折々、森野や神田のセリフで語られる部分はあるものの、視点人物にならないのに、この二人の姿が、思いが、どれほどしっかりと浮き上がってくることか。

小説推理新人賞でデビューしたのに、ミステリ味がごくごく薄味だなぁ、というところですが、本多孝好はこれでいいんですよね。






タグ:本多孝好
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読めない遺言書 [日本の作家 ま行]

読めない遺言書 (双葉文庫)

読めない遺言書 (双葉文庫)

  • 作者: 深山 亮
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/10/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙側あらすじ>
中学校教師の竹原に、傷害事件を起こして以降、没交渉だった父親が孤独死したとの連絡が入る。父親は遺言書を残しており、そこには竹原の知らない人物に財産を贈ることが書かれていた。疑問に思いその人物を調べ始める竹原だが、やがてさまざまな事件に巻き込まれていく―。単行本刊行時に各紙誌で絶賛された長編ミステリーが遂に文庫化。第32回小説推理新人賞受賞作家のデビュー作。


「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」 (双葉文庫)感想の際、
「同じ作者の「読めない遺言書」 (双葉文庫)が評判よさそうだったので読んでみようかな、と思ったら品切(絶版)。」
と書いたのですが、未だ本屋さんの店頭では手に入る、という情報を入手したので、知人に買ってきてもらいました!
失礼を顧みずいうと、これは拾い物。人手を煩わせて買ってきてもらってよかった、と思える佳品でした!

もっとも主人公・竹原俊和の小市民さ、というか、うじうじしたところを許容できるか、というのが一つのバー(ハードル)になるような気もします。
断絶していた父親が死に、遺言書が残されていて、遺産が渡る相手・小井戸広美のことを調べ始める。
なのに広美に恋愛感情を抱いてしまい、うじうじ。
女子生徒安田美宇花の態度や振る舞いにうじうじ。
不登校生・岡島大洋とその母親小枝子にうじうじ。
よくもまあ、これだけうじうじできるなぁ、というところですが、面白いのはそんな折にも、斜に構えたというか、皮肉に物事を捉えていて、なんか可笑しいですよね。
余裕がないくせに、余裕があるように思えるというか... 本人も認めている通り、一所懸命でないから、そう思えるのかもしれませんが。

そうして、それらすべてのうじうじエピソードが、相互の関連はない、あるいは非常に乏しいけれども、竹原のもとで意志決定につながっていく。
いいではないですか、こういうの。
そして背後に貫かれているのが、「ライオンズ大全」と、プロ野球史上最高のセカンドとうたわれている、往年の名選手辻発彦。
これもいいではないですか。

だいたいこういう設定の場合、一所懸命でない主人公が、さて、どんなきっかけで、どんなタイミングで一所懸命になり、やる気をだすのか、というのがポイントになるわけですが、辻発彦、やってくれますよ(笑)。
タイミング的には、あまりにもベタな状況での実力発揮(?) となるわけですが、そしてその際も単独自力で解決できはしないのですが、こういうストーリー展開にはそれでいいのです。
そして、それぞれのうじうじが、ちゃんと収まるところへ収まっていく。
この着地が見事なことが、この作品の長所ですね。

3冊目の著書のタイトルが「必殺の三文判」(双葉社)
どんな内容なのか、すごく気になります。
この作品が2016年に出た後、新刊は出ていないようです。
あまり作品数は多くないですが、今後も書き続けていってほしいですね。
また読んでみたいです。

タグ:深山亮
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シフォン・リボン・シフォン [日本の作家 近藤史恵]

シフォン・リボン・シフォン (朝日文庫)

シフォン・リボン・シフォン (朝日文庫)

  • 作者: 近藤史恵
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2015/08/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
乳がんの手術後、故郷に戻ってランジェリーショップをひらいたオーナーのかなえ。彼女のもとを訪れる、それぞれの屈託を抱えた客たちは、レースやリボンで飾られた美しい下着に、やさしく心をほぐされていく。地方都市に生きる人々の希望を描く小説集。


近藤史恵のランジェリーショップをキーにした連作集です。
余談ですが、男なのでブラジャーを身に着けたことがなく、「シフォンチュールレースが」(163ページ)とか言われても何のことやらなのですが、たとえば女性の読者なら、162ページから書かれているような感想、共感できるんでしょうか? そうするとこの作品をもっともっと楽しめるのかも。
あっ、でも、知らなくても楽しめますよ。そのあたりは安心印の近藤史恵さんの作品ですから。

ただ、引用しておいてなんですが、裏表紙側のあらすじは読まないほうがいいですね。
それよりは帯の
「地方都市のさびれた商店街に花ひらいたランジェリーショップ。そこに出入りする人々の屈託と希望を描く小説集。」
くらいの知識のみで読み進めたほうが心地よいと思います。

それこそ繊細な下着のような(とここは想像ですが)、柔らかな手触りにくるまれてはいるものの、物語の芯にあるのは、近藤史恵らしく重いテーマだったりします。
乱暴にまとめてしまうと家族が一番面倒くさい、でしょうか......
そしてそこに、まっすぐ前を向いて生きていく知恵が忍ばせてある。
でも家族だ、ということ。

ミステリ味はほぼないですが、すんなり楽しく読めました。




<蛇足1>
「テレビに映る東京は、なにもかも華やかで新しく、ぺかぺかと輝いているように見えた。」(12ページ)
ぴかぴか、でなく、ぺかぺか、なんですね。

<蛇足2>
「そりゃあ、大変なことも多いだろうけどさ。やっぱり一国一城の主がいいよ。雇われて、だれかの下で働くよりもさ。」(105ページ)
父から米穀店を継いだ兄に、会社員になった弟がいうセリフです。
よく言われる話ですし、どちらにも一長一短、善し悪しがあると思いますが、確かに、自分で決めて自分で引き受けることのできる立場は、サラリーマンからするとうらやましくなりますね。




タグ:近藤史恵
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真赤な子犬 [日本の作家 は行]

真赤な子犬: <新装版> (徳間文庫 ひ 2-8)

真赤な子犬: <新装版> (徳間文庫 ひ 2-8)

  • 作者: 日影丈吉
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/08/02
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
五ツ木守男は自殺しようと準備万端、毒入りステーキを用意した。いざ! その前にトイレ……戻ると、なんと食いしん坊の国務大臣がステーキを頬張っているではないか! 慌てた守男は四階から転落死。現場に駆け付けた四道警部は、真赤な犬を見たという女中の証言が気になっていた。そんな犬、存在する? さらに雪山で扼殺死体まで見つかってさあ大変! ハイカラで流麗な本格ミステリ復刊。


日影丈吉というと一時期徳間文庫にかなり揃っていた印象だったのですが今やほぼ全滅。
近年の復刊ブームに乗って、この「真赤な子犬」 (徳間文庫)も新装版が出ました。
めでたい。

実はタイトルを見てもなんとも思っておらず、本文での指摘で初めて気づいたのですが、「真赤な子犬」 って、変ですよね。
たしかに、真っ赤な犬なんていない...
この点にちゃんと合理的な(?) 説明がついていますし、このことが物語を駆動する仕掛けとしてちゃんと機能しています(でないとタイトルにする意味がないかもしれませんが)。
このあたりの細かい配慮がステキです。

あらすじからもお分かりいただけると思いますが、かなりドタバタ調で、場所もストーリーもあちらへ飛び、こちらへ飛び、かなりスピーディーです。
また、章題に「読者だけが知っている」なんていうのがありますが、読者だけが知っていることと警察が知っていることに差異が設けてあり、そこが物語に趣を与えてもいます。

毒入りステーキを横取りして(?) 食べちゃう国務大臣三渡の影武者を務める(務めさせられる)守衛の山東さんがいい味ですね。
「無欲らしい山東は、こうして見ると三渡氏よりもずっと品がある」(131ページ)
なんて秘書の久我が言うくらいですから。

これらの愉快な要素と物語が語られる勢いの良さ(と巧みな構成)に流されて、事件の真相から目をそらされてしまうんですね。
雪山の足跡のトリックとか、単純なんですがうまく仕組まれていると思いました。

解説で千街晶之が書いている他の成功作「女の家」「孤独の罠」「地獄時計」なんかもどこかで復刊してほしいですね。

<蛇足1>
発表年が1959年と60年近く前の作品なので、時代を感じさせる表現があふれているのが興味深いですよね。
いきなり「ゴチック式」ですし、暖房ではなく煖房。「せせり歩く」なんて表現もクラシカルなイメージ。これが1ページ目です。
あれっと思ったのは、
「今日は幾日だったっけかな?」(101ページ)
というフレーズ、幾日に“いくか”とルビが振ってあります。こういう言い方をしたんですね。
今だと何日(なんにち)というところですね。
今回ここを入力しようとして“いくか”と入れてみても漢字変換されませんでした。
すっかり廃れてしまった言い方、ということでしょう。

<蛇足2>
プランクステーキというのが出て来ます。たとえば27ページ。
知らなかったので、ネットで調べてみましたが、ハンガリー料理なんですね。
「プランクステーキとは、木のお皿に、赤ワインとパプリカでマリネされたステーキに、マッシュポテトと野菜と2種類のソース(ペッパーソースとベアルネーズソース)が盛り付けられているもの」だそうです。(見つけたページにリンクを貼っています。勝手リンクですみません)


タグ:日影丈吉
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