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キング・メイカー [日本の作家 ま行]


キング・メイカー (双葉文庫)

キング・メイカー (双葉文庫)

  • 作者: 水原秀策
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: Kindle版

<裏表紙あらすじ>
未来もお金もない底辺ボクサー・黒木には、たった一つ、夢がある。それは、「かつてのライバルと世界タイトル戦で拳を交える」こと。そんな彼のもとに、天才詐欺師・沖島とその助手の美女が現れた。百円の契約料で、その夢を実現するという。藁をもつかむ気持ちで契約した黒木は、代償として平穏な生活を失うことに――。女性に奥手、口下手、純粋過ぎる、その全てを沖島に利用され、美女に翻弄されながら、黒木は世間を賑わす「悪役ボクサー」として頂点へ駆け上がる! 「騙しのプロ」が一発逆転のトリックを仕掛けた、奇跡の六ヶ月。


作者である水原秀策は、「サウスポー・キラー」 (宝島社文庫)で、第3回 『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューした作家です。
「サウスポー・キラー」 が好みにぴったり合いまして、その後文庫化された作品はすべて買っています。
語弊があるかもしれませんが、ミステリとして突出したところがあるという作風ではありません。
ただ、読み心地がすこぶる良い。人物像と語り口で読ませるタイプ、と思っています。

今回の舞台はボクシング。さらに、ミステリ、ではないですね。
解説で北上次郎も書いています。
「だから一度、ミステリーから離れた作品を読みたいと思っていた。そうすればこの作家の美点が全開するのではないか。その予感が間違っていなかったことを本書が証明してくれたのは嬉しい。」と。

正直、”天才詐欺師・沖島”が打つ手は、さほど意外なものではありません。
(さらに言ってしまうと、最後に沖島がとる手段はあまりにもベタすぎるように思いますし、そういう手を繰り出すのであれば、もっと早くそうしてしまえばよいのに、とも思います。もっともこんな読み方をするのはミステリ好きの悪い癖ですが)
それでもハラハラドキドキ、楽しく読み進めることができるのは、登場人物、特に黒木の煩悶がしっかり伝わってくるからだと思います。
それぞれ癖のある登場人物がぶつかり合うダイナミズムがポイントですね。
ミステリでなかったことは個人的に残念ですが、とても楽しく読めました!

このあと、水原秀策の作品の文庫化が途絶えてしまっているようです。
単行本で出たきりの作品がいくつかあるようなので、ぜひ文庫化してください。
あと、新作も出してね。



<おまけ>
いつものように Amazon のリンクを貼っているのですが、文庫のものがなく、Kindle版のみでした。
そもそも文庫本のページもなさそうです。
残念......




タグ:水原秀策
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わたしのノーマジーン [日本の作家 初野晴]


([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/06/05
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
終末論が囁かれる荒廃した世界──孤独に生きるシズカの前に現れたのは言葉を話す不思議なサルだった。シズカを支えるためにやって来たという彼の名は、ノーマジーン。しかしその愛くるしい姿には、ある秘密が隠されていた。壊れかけた日常で見える本当に大切なものとは。


更新に間が空いてしまいました。
今年の7月に読んだ10冊目の本です。
初野晴のノン・シリーズ作品で、終末の世界を舞台にしています。
ハルチカシリーズのイメージが強いですが、この「わたしのノーマジーン」 (ポプラ文庫)のようなファンタジックな作品世界も、初野晴の持ち味です。

この作品の終末(感)は、戦争によってもたらされたものではないのですね。
「世界の各地で熱波や豪雨などの異常気象が頻発」(12ページ)したからなんですね。そして終末論が流布する。けれども人々は、終末論を信じたり信じなかったりさまざまながら、普通の生活を続けているような状況。

主人公(?) のシズカは足が不自由で、注文したはずの介護介助ロボットは届かず、かわりにやってきたのは、言葉を操る赤毛の小さいサル、ノーマジーン。
シズカと無邪気なノーマジーンとの、二人の共同生活が始まる。

二人のエピソードは、あらすじから想像がつくかもしれませんが、微笑ましい、心温まると言っていいようなもの。
映画『Some Like It Hot』のセリフ
「Nobody's perfect(完全な人間なんていない)」
の聞き間違いとか、素敵ですね。(172ページ~)

そのエピソードが積み重ねられて、終末というのに、(それだからこそ、かもしれませんが、)柔らかな世界を紡いでいく。
こういう静謐な世界観、好きなんですよね。ずっと浸っていたい気になります。

第二部に入ると、新たな視点人物が登場します。
「ある賊徒の視点」と目次にもありますが、この賊徒が重要な役割を果たします。
出来上がっているシズカとノーマジーンの世界をめぐる秘密が、この第二部で、薄皮をはぐように、明かされていく。

その秘密は(小説である以上)当然のことながら、シズカとノーマジーン、ふたりの関係性を変えてしまい得るもの、なわけで、どうなってしまうのだろう、とドキドキ、心配しながら読み進めることになります。

エピローグで再びシズカの視点に戻ります。
この結末は、物語的にはハッピーエンディングなのでしょうね。
こうなることを祈りながら読んでいました。
でも、寂しさを内包している。
なぜなら
「わたしたちには必ず終わりがくる。
 わたしたちだけではなく、動物にも、花にもーー」(296ページ)
だから。


<蛇足>
この本、サイン本が売られていたのでそれを買いました。
初野晴さんのサインもかわいいのですが、横にリンゴのスタンプが添えられています。
さらに、この本だからだと思いますが、おさるさんのシールが貼ってあって、とてもかわいい。
すごく得した気分です!
DSC_0187_.jpg


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