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アリス・ザ・ワンダーキラー 少女探偵殺人事件 [日本の作家 は行]


アリス・ザ・ワンダーキラー: 少女探偵殺人事件 (光文社文庫)

アリス・ザ・ワンダーキラー: 少女探偵殺人事件 (光文社文庫)

  • 作者: 吝, 早坂
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
十歳の誕生日を迎えたアリスは、父親から「極上の謎」をプレゼントされた。それは、ウサ耳形ヘッドギア《ホワイトラビット》を着けて、『不思議の国のアリス』の仮想空間(バーチャルリアリティ)で謎を解くこと。待ち受けるのは五つの問い、制限時間は二十四時間。父親のような名探偵になりたいアリスは、コーモラント・イーグレットという青年に導かれ、このゲームに挑むのだが──。


2022年8月に読んだ5冊目の本です。
早坂吝の5作目の著作です。

「今からしっかり勉強して、私のような堅い職業につきなさい」(7ページ)
としつこく言ってくる母親から逃れるように、父親のような名探偵になりたいアリス10歳が主人公。
「私の前に不思議はない!」
なんて決め台詞まで持っているのですから、なかなかのものです。
もっともこの点は
「僕からすれば、どうしてその恥ずかしい台詞を毎回大真面目に言えるのかが不思議なのだが」(177ページ)
なんて作中でからかわれたりもしていますが。

誕生プレゼントにもらったバーシャルリアリティの世界で謎を解く、という設定です。
5問用意されています。

こういう作中人物が作った謎を解くという設定は好きではありません。
よほど堅固な設定と詳細な説明がないと、謎解きの前提がしっかりしたものとはならない、と考えているからです。
謎解きクイズではなく小説である以上、事前に長々と設定を説明するわけにはいかず、どうしても途中で説明が繰り出されるということになるわけですが、よほどうまく組み立ててもらわないと、後出しじゃんけんでなんでもできるじゃん、という印象を受けてしまいがちです。

また、当然ながら、それぞれの内容の解決・真相とは別に、出題者の意図というものが問われるはずなのですが、この取り扱いが意外と難しいのか、単に謎を出したかった、というだけのものになっていることもあり、更なるがっかりということにもなりがちです。

その点で、この「アリス・ザ・ワンダーキラー: 少女探偵殺人事件」 (光文社文庫)は背景がミステリ的にしっかり作り込まれていてよかったです。
さすがは早坂吝。

第一問 SOLVE ME はクイズ、ですね。まあ小手調べといったところ。

第二問 ハム爵夫人はかなり残酷な話ですが、原典である
「不思議の国のアリス」も相当残酷なところがあるので、これはこれで。
余談ですが、アリスのリンクをロバート・サブダの<とびだししかけえほん>に貼ったのですが、この絵本とてもすごいものなので、ぜひご覧ください。高いけど...

第三問 カラスと書き物机はなぜ似ているか はダイイング・メッセージ(?)を扱っています。もともとダイイング・メッセージはパズルに近いので、こういうのに向いていますね。

第四問 卵が先か はハンプディ・ダンプディが殺される事件を扱っています。おもしろい着想のトリックを使っているな(しかも、戯画的な世界観に合っています)、と思えたのですが、うまくいくかな?と疑問に思うこともないではないです。

第五問 Hurt the Heart はちょっと強引なところもありますが、周到に作りこまれた作品で、論理的な謎解きというものを通して意外な犯人を浮かび上がらせています。
そして、この謎解きそのものがエピローグ、すなわちこの作品全体の背景につながっていくところが見事です。


<蛇足1>
「最近、この国を治める『ハートの王』が新しい王妃『ハートの女王』を迎えたのですが、この女王が大層わがままで、数々の独裁的な法律を作ったのです。」(101ページ)
ここを読むまでなんとも思っていなかったのですが、英語 queen の訳は、女王とも王妃ともなるのですね。日本語では女王と王妃は別物ですね。
したがって、普通に考えると引用した部分の「この女王が」のところは日本語的には「この王妃が」というべきところなのですが、「ハートの女王」という名称をつけてこの点をクリアしていますね。

<蛇足2>
「『卵の体を作るには卵を食べるのが一番だ。私からすれば、人間が同族を食べたがらないのは理解に苦しむね』
 ハンプティは人を食ったようなことを言うと、私に聞いてきた。」(163ページ)
一瞬合理的な考えのように思ってしまいました(笑)。



タグ:早坂吝
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