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フレンチ警視最初の事件 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フレンチ警視最初の事件 (創元推理文庫)

フレンチ警視最初の事件 (創元推理文庫)

  • 作者: F・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/06/29
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
リデル弁護士はダルシー・ヒースの奇妙な依頼を反芻していた。裕福な老紳士が亡くなり自殺と評決された後に他殺と判明し真相が解明される。そんな推理小説を書きたい。犯人が仕掛けたトリックを考えてくれという依頼だ。何だかおかしい、本当に小説を書くのが目的なのか。リデルはミス・ヒースを調べさせ、ついにはスコットランドヤードのフレンチ警視に自分の憂慮を打ち明ける。

創元推理文庫にはままあることですが、この「フレンチ警視最初の事件」、裏表紙あらすじと、表紙をめくったところにある扉に書かれたあらすじがずいぶん違います。
扉のあらすじを引用します。

愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクが貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーの許を去ってからも、良心の咎める行為をやめられずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。これでサー・ローランドの娘は莫大な遺産を相続し、結婚相手がどこの馬の骨だろうと文句をつける人間はいないわけだ。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然なのかしら。一方、検視審問で自殺と評決されたサー・ローランド事件の再検討が始まり、警視に昇進したばかりのフレンチが出馬を要請されて……。

扉のあらすじの方がストーリー展開に忠実ですね。ダルシーが疑問に思って弁護士に相談にいったあとのことを裏表紙あらすじは書いています。
しかし、「Silence for the Murderer」という原題を、「フレンチ警視最初の事件」にしてしまうって、すごいセンスですねぇ。フレンチ警部が警視に昇進するのって、この本で扱う事件と何の関係もないのに...

事件のほうは、詐欺の片棒をかつがさせれたダルシーが、捨てられた恋人が殺人犯なのではないかと思い悩む、というもので、なんだかカーにありそうな設定だなぁ、と思いました。
視点人物とはいえ、ダルシーは犯罪の共犯者ですし、フランクが去ってからも一人で詐欺を続けているあたりの弱さをどうとらえるか、読み手のスタンスが分かれそうです。
カーならば、無理やりにでもハッピーエンドに持ち込んで見せるところですが、果たしてクロフツはどうか、そんな興味も湧いてきます。
以前あまりちゃんと読んでいなかったことと、創元推理文庫からじっくりではあるものの快調に復刊がされていることとで、ここ数年クロフツを読む機会が増えているのですが、退屈なアリバイ崩しが多い作家、というイメージと違って、いろいろとバラエティに富んだ作品を次々と発表していた作家なのだなぁ、とあらためて感じます。
確かに展開は、今の作品と比べるとゆっくりとしていますが、退屈というわけではなく、ゆっくり、というよりも、ゆったり、と言ったほうがよいのかも。この「フレンチ警視最初の事件」にもみられるように、決してセンスが良いとはいえないものの、ロマンス(!)も古き良きというか、時代を感じさせる滋味あるロマンスで取り入れられており、いろいろと目配りの効いた作家だったのではないでしょうか。
派手さはないものの、真犯人を差し出す手つきはなかなか微妙なラインを突いていて手堅い印象。
やはり、今後も着実に読んでいきたい作家です。
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フレンチ警部とチェインの謎 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フレンチ警部とチェインの謎 (創元推理文庫 106-5)

フレンチ警部とチェインの謎 (創元推理文庫 106-5)

  • 作者: F.W.クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1971/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
快活な青年チェイン氏はある日、ホテルで初対面の男に薬を盛られ、意識を失う。翌日自宅に戻ると、家は何者かに荒らされていた。一連の犯行の目的は何か? 独自の調査を始めたチェイン氏を襲う危機また危機。いよいよ進退窮まったとき、フレンチ警部が登場し事件の全貌解明に乗り出す。本書は冒険小説と謎解きミステリの妙味を兼ね備えた、クロフツ初期の輝かしい傑作である。

いつものことなので裏表紙のあらすじを上に引用しましたが、表紙を開いたところにある扉のあらすじが、なんか勢いがあっていいんです。
「プリマス市のホテルでチェイン氏を襲ったパークスと名乗る男は、何者なのか? また呼応するように自宅を荒らした者の目的は何か? 文字と数字と曲線を囲む無数の輪で構成された暗号表は、何を物語るのか! 殺人、誘拐、脅迫そしてパークス一味がねらうチェイン氏の秘密とは何か! チェイン氏は事件の究明に奔走したが行きづまった。やがて事件はフレンチ警部の手へ移り、本格的な捜査が始まる。処女作『樽』から数えて第六作目。フレンチ警部ものとしては第二作目にあたるクロフツ初期の輝かしい傑作。」
? とか ! が力強く、なんだか、紹介している人に力が入っているのが伝わってきます。
フレンチ警部ものの構成としても変わっていて、前半にはフレンチ警部は出てきません。主人公である青年チェインの冒険物語になっているのです。「冒険小説と謎解きミステリの妙味を兼ね備えた」というのは、冒険小説の妙味とは何か、という命題の答えによってイエスともノーとも言えてしまうと思いますが、危機が迫ってもどこかおっとりしている昔懐かしい冒険小説の味わいは感じることができます。
フレンチ警部が出てきてから、謎解きが始まるのですが、326ページの暗号(?)の出来は、よく作ったなぁと関心はできるもののなんだか中途半端ですし、一つのフラスコから注いだ二杯のお酒の片方だけにどうやって薬を入れるのかという謎解きも、図入りで説明してくれているのですが、たぶん「なんだかなぁ」という感想に落ち着きそうですし、ミステリ部分の仕掛けがとってもしょぼくって、笑ってしまうくらいなんですが、それでも憎めないというか、楽しく読んでしまいました。
作者は一所懸命だったんだろうと思うんですが、どことなく余裕を感じるというか、読者として鷹揚に構えたくなるような、不思議な作品です。暗号を解読した結果たどり着く地点も、再び冒険小説テイストになるというお茶目さ。だからか、訳者のあとがきも「本文庫に収録されたクロフツの作品もすでに二十編を越えたが、なかでも、この作品はクロフツの新しい試みのひとつとして、読者の思い出に残ることが期待される」なんて、褒めてるんだかどうだかよくわからないコメントで締めくくられています。
出来はいいとは言えないのだと思いますが、でも個人的にはなかなかよかったと、印象に残る作品でした。

ところで、タイトルはちょっといただけないですよね。
チェインって、主人公の名前ですよ。このタイトルだと、チェインという人物が謎だらけ、とかいうことかと思ってしまいます。原題もそのままなのですが、チェインに謎があるわけではないんだけど...

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フレンチ警部と毒蛇の謎 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フレンチ警部と毒蛇の謎 (創元推理文庫)

フレンチ警部と毒蛇の謎 (創元推理文庫)

  • 作者: F・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/03/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
私はジョージ・サリッジ。仕事はともかく家庭に満足しているとは言えない。だから博打に入れあげることにもなった。運命の女性ナンシーに逢った今や、二重生活を支える資金も必要だ。だから“叔母の遺産で万事解決”の皮算用が吹っ飛んだ衝撃といったらなかった。あげく悪事のお先棒を担がされ、心沈む日々。しかも、事故とされた一件をフレンチという男が掻き回している……。

「午後からはワニ日和」 (文春文庫)の次に読んだこの本にも動物園が登場しました。狙ったわけではなく、偶然ですけどね。
フレンチ警部が登場しますが、ミステリのジャンルでいうと倒叙のパターンで幕開けです。
ただ普通の倒叙ものと違って、視点人物となるサリッジは、共犯者というところがミソ。実際の殺人については知らないので、犯行部分は読者に伏せられています。この肝心なところが明かされないのが、なかなか興味深い。
そのうちフレンチ警部の捜査へ視点が移るわけですが、その着実な捜査ぶりが大きな読みどころですね。
共犯者サイドから見たときに、これは捜査しにくそう、手掛かりや決め手がすくなそうだなぁ、と思って読んでいかれると思いますので、フレンチ警部の腕の冴え、頭の冴えが、きちんと伝わってくると思います。
伏せられている犯行手段がちょっとわかりづらい点はたまにキズですが、じわっじわっと捜査が犯人(たち)へ向かって絞られていく様子を堪能しました。
本書はクロフツの最後の未訳長編だったそうです。最後に回された理由はわかりませんが、決して不出来だったから、ではないですね。手堅い、充実したミステリでした。
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ギルフォードの犯罪 [海外の作家 F・W・クロフツ]


ギルフォードの犯罪 (創元推理文庫 106-24)

ギルフォードの犯罪 (創元推理文庫 106-24)

  • 作者: F.W.クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1979/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ロンドン有数の宝石商ノーンズ商会の役員たちは、ギルフォードに参集した。ところが夜のうちに経理部長が殺され、さらにつづいて会社の金庫から、50万ポンド相当の宝石類が紛失していることが発見される。経理部長の死と紛失した宝石類──二つの謎はどう関連しているのか? 堅固なアリバイを持つ容疑者たちに対する、フレンチ首席警部の執拗な捜査を描いた力作長編。

創元推理文庫が毎年やっている復刊フェアで、クロフツは常連となっており、この作品も2009年の復刊です。この年は文庫創刊50周年記念だったようです。この調子で全部読めるようになるとうれしいですね。いまAmazonでチェックすると、本書は再び絶版になっているようですが...
金庫からの宝石盗難事件と、一見自殺に見える死亡事件が扱われています。
フレンチ主席警部は凡人型とよく言われますが、推理そのものはぽんとひらめくことが多いので、努力型ではあっても実際のところは天才型とあまり変わらないのではないかと思います。ただ、小刻みに捜査が進展することで、ひらめきとひらめきの間が写実的というか、派手なところがなくじっくりなので、凡人タイプといわれるのではないでしょうか? そしてクロフツの作品はこのつなぎの部分が読みどころのひとつだと思います。
たとえば、金庫盗難事件の鍵をめぐるトリックは、果たして実行可能なのかどうか疑問に思うところもありますが、このつなぎ部分が隙間を着実に埋めていく雰囲気を醸していて、なんとなく現実的なトリックであるように思えるところなど特徴的かと思います。
最後にすっと舞台が広がるところもクロフツらしい作品です。
手堅い本格ミステリとして、なかなかよかったと思います。続けてほかの作品も復刊してくださいね。

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