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トギオ [日本の作家 た行]


トギオ (宝島社文庫)

トギオ (宝島社文庫)

  • 作者: 太朗 想史郎
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2011/03/04
  • メディア: 文庫


<背表紙あらすじ>
選考委員が驚愕した衝撃の問題作がついに文庫化! 捨て子の「白」を拾ったがために、大きく狂いはじめる主人公の人生。村八分に遭い、クラスメイトからも陰湿ないじめを受ける。村を出た主人公は港町に流れつき、やがて大都会・東暁“とうぎょう”を目指す。悪事に手を染め、殺伐とした東暁で地べたを這いつくばって生きる主人公が唯一気にかけていたのは、村に置いてきた白のことだった――。

第8回『このミステリーがすごい!』大賞を、「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫) と同時受賞した作品です。「このミステリーがすごい!」大賞は、ときおりミステリーというよりは(ミステリーではなく、と言いたいところですが自制)、バイオレンス傾向の作品を受賞させていて、いずれも苦手な作品だったので、おそるおそる読みました。
「結局、僕よりも白のほうが長生きした。僕が死んで一世紀近く経ったのに、白はそのことをずっと気にしている」というのが冒頭です。かなり魅力的な書き出しです。
第一部が「山村」、第二部が港町」、第三部が「東暁」と、舞台を変えていきます。そしてクライマックスの第四部が「真紅の鷲」。
東京がTOKIO、なので、この作品の東暁がTOGIO(トギオ)、ということですね。異世界を舞台にした作品です。設定としては近未来なのでしょうか? SFというほどのことではないと思います。ちょっとこの世界観がわかりにくいように思いました。
第一部の山村は、まるで戦前か終戦直後のようなイメージに思えました。口減らし、とか、村八分とか、それを背景にした学校でのいじめ、とか。こういう設定は苦手なので、舞台の変わりそうな第二部に期待して我慢。
そして第二部は、今度は終戦後の闇市のよう。ここでも暴力的な世界が描かれます。でも、ノワールというよりは単なるバイオレンスという印象。
そして特権的な東暁に移るわけですが、ここに来るころにはだいぶ読み疲れていました。
近未来的なイメージを与えるガジェットとして、”オリガミ”とか”情報洋”とか出てくるのですが、携帯電話(ipadのようなイメージ)とインターネットを超えるものではなく、せっかくだからもうちょっとイメージをふくらませてほしなぁ、と。これでは今とあまり変わりません。「マトリックス」 ほどとは言いませんが、現実からの飛躍をもう少し見せてほしかった。
クライマックスも、ちょっとわかりづらい。書かれているような襲撃で、書かれているような結果になるとは思えません。肝心の襲撃そのものの描写はほとんどありません。作者もその点は気になるのか、一応の説明を加えていますが、東暁のあり方からして、たぶん無理でしょう。作り出した世界観と平仄があっていないように思います。襲撃の結果は、かなり印象的なものにはなっているので、ひょっとすると映像化してもらえればよいのかもしれません。
冒頭の文章にもうかがわれる、語りの趣向も、効果を上げているようには思えませんでした。
裏表紙サイドの帯や解説に、「このミステリーの枠を超えてすごい」とありますが、そのとおり、ミステリーの外にいる作品だと思います。
荒んだ世界に荒んだ暴力で立ち向かう、という物語が好きな方におすすめ、です。
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