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殺戮ゲームの館 [日本の作家 た行]


殺戮ゲームの館〈上〉 (メディアワークス文庫)殺戮ゲームの館〈下〉 (メディアワークス文庫)殺戮ゲームの館〈下〉 (メディアワークス文庫)
  • 作者: 土橋 真二郎
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
――誰かが言った。この二つには共通点があるのではないか。一つは時折マスメディアをにぎわす集団自殺のニュース。そしてもう一つは人間が殺し合う娯楽ビデオが存在するという都市伝説。
出会いや遊びが目的のオカルトサークルに所属する福永祐樹は、ネットで偶然見つけた自殺サイトに興味を持ち、集団自殺の現場となったというある廃墟にたどり着く。だが祐樹が目覚めた時、彼を含むサークルメンバー11名は密室に閉じ込められていた……。戦慄の密室サスペンス、上巻。
ネットで得た情報をもとに集団自殺の廃墟を探していた福永祐樹含むオカルトサークルメンバー11名は、気が付くと密室に閉じ込められていた。そこで待ち受けていたのは、一方的に提示される不可解な《ルール》と、夜を迎える度に一人、また一人と殺されていく悪夢のような現実――。やがて祐樹たちの前に“警告者”が現れ、密室の中で行われる死を賭けたゲームの存在とどこかに“殺人犯”がいることを告げるが……!? 疑心渦巻く密室サスペンス、下巻。

「そして誰もいなくなった」 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) を思わせる小道具(?)もあって、そういう狙いの作品なのかな、と思いましたが、人狼というパーティ・ゲームをベースにした作品のようです。ゲーム「人狼」についてはウィキペディアの「汝は人狼なりや?」をご参照。この作品独自のルールもありますし、ゲーム「人狼」を知らなくても読むには困りません。
メンバーの中に紛れている“魔物”(人狼ゲームでは狼のところを、この作品では魔物と呼んでいます)を突き止めないと、夜の間に一人ずつ殺されていく、というのが大枠です。
主人公祐樹は論理的に(?)犯人を突き止めようとしますが、同じサークル仲間ということで仲間を疑いたくない!と拒否するものもいる、という展開を見せます。でも時間は刻々と...
“魔物”の正体は、ミステリとしてみたさほど意外ではないと思います。こういうどんどん人が死んでいく設定の作品はこれまでにもいっぱいあるので、ある程度想定ができてしまうからです。しかし、メンバーが唯一身を守れる小道具「斬魔刀」をキーにした“魔物”を突き止めるロジックの意味合いがすっと角度を変えて浮上するくだりは非常に感心しました。この設定だからこその切れ味ですし、いわゆる名探偵の論理への一種のアンチテーゼのようにも思えます。
ただ、この作品は全体としてみた場合、あまりにも後味が悪く、おすすめできません。パーティゲームであれば「死」というのは単なるお約束なので良いのですが、この小説の設定のように現実に殺されてしまうとなると、ゲームどころでないというか、堪らないなと思います。自分が助かるためには誰かを見殺しに、あるいは犠牲にしないといけないという状況はつらすぎる。
ゲームにしろ小説にしろ、所詮フィクションだからいいではないかという意見もあると思いますし、場合によってはそういう意見にも賛同しますが、この作品の場合、登場人物がそういう意見を裏切った行動をとりすぎているように思います。サークル仲間を疑いたくないという考えに立つというのはその一例です。一方で、そういう心情に重きを置いていると見るにしては、ゲームとしての仕掛けに過剰に趣向が凝らされています。作品を通してみると、ゲーム性・虚構性を肯定するのか、否定するのか、作者は両方の立場を視野に入れて構築しているように思われますが、そのことがかえって後味の悪さを増すことにつながっているのではないでしょうか。サークル仲間という設定ではなく、見知らぬ同士というほうがよかったかもしれません。
この、サークル仲間だったという点は、この作品のもうひとつの大きな問題--このゲームを仕掛けた黒幕(と呼んでおきます)の狙いに説得力がなさすぎること--にも関係しているので、作者の計算が外れてしまったのかもしれません。
表紙見返しの作者紹介によれば、「極限状態に置かれた登場人物たちのリアルな心理描写に定評がある」とのことで、確かにそこは力が入っているなと思いました。状況設定とのバランスに配慮してもらえると、もっともっと楽しめると思います。


タグ:土橋真二郎
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