SSブログ

襲名犯 [日本の作家 た行]


襲名犯

襲名犯

  • 作者: 竹吉 優輔
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/06
  • メディア: 単行本


<帯裏表紙側あらすじ>
十四年前、ある地方都市で起きた連続猟奇殺人事件。逮捕後、その美貌と語り口から、男には熱狂的な信奉者も生まれたが、やがて死刑が執行される。彼の「死」は始まりにすぎななかった。そしていま、第二の事件が起きる――。

単行本です。
第59回江戸川乱歩賞受賞作。今年の乱歩賞作品です。
このところ、ちゃんと(?) 読んだ順に感想をアップしていましたが、この作品は順番を飛ばして、先に感想を書くことにします。

まず、「襲名犯」というタイトルがいいな、と思いました。
模倣犯、とは違うネーミングをつけているわけですね。新しい造語だと思うのですが、「襲名犯」という単語を見ただけで、「模倣犯」とは違う意味合いというか、大げさに言うと思想が込められていることがわかります。先人の犯罪をマネしただけではない、古典芸能の「襲名」のように、衣鉢を継ぐものという、矜持(?) が感じられます。
これは期待できるぞ、と気合を込めて読み始めました。
ところが、この「襲名犯」という卓抜なネーミングが、マイナスにもなっています。
犯人は誰か、という犯人探しの物語なのですが、このタイトルのおかげで、動機が最初から明かされているも同然で、さほど多くない登場人物から真犯人を選び出すのが簡単になってしまったのです。惜しい。
巻末を見ると応募時点のタイトルは「ブージャム狩り」だったんですね。ブージャムは、ルイス・キャロルの「スナーク狩り」に出てくる怪物の名前です。(余談ですが、宮部みゆきに「スナーク狩り」 (光文社文庫プレミアム)という作品がありますね。あと、ウィリアム・L・デアンドリアの訳書にも「スナーク狩り」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)というのがあります。いまどき、デアンドリアなんて、みなさん知らないですね...)
こちらの方が、真相を隠すにはよかったのかもしれませんが、やっぱり、「襲名犯」の方がインパクトがあっていいように感じます。

一方で、「襲名犯」といいながら、オリジナルの方、熱狂的な信奉者も生まれたという十四年前の殺人犯新田秀哉の回想シーンも、新田と交流していた少年の視点と本人の視点で挟まれます。
もう少しこちらのシーンにも筆を割いてよかったように思いますが(なんといっても、オリジナルあってこその「襲名犯」ですから。なんとなく書かれてはいますが、新田のカリスマ性というか、信奉者を生むほどの個性がそれほど強く訴えかけてこないのがちょっと残念です)、そうしてしまうと、乱歩賞の規定枚数をオーバーしてしまうのかもしれませんね。

主人公である司書の南條仁が、実にうじうじした人物でして、生い立ちとか育ち方からすればやむを得ないのかもしれませんが(生後三か月で、双子の兄・南條信が遠縁の南條家に養子に出され、言葉を交わしたことがない。その信は新田に殺されてしまう。その後、仁自身が南條家に養子縁組される。信の身代わりとして。恋人も、信の身代わりとして仁とつきあっていたようだ)、うーん、確かに不幸だけど、もうちょっとしゃっきりせんかいっ! と叱咤したくなるところ。
むしろ(?) 仁が二重人格なのではないかと読者に思わせてしまうようなエピソードを抛り込んでもおもしろかったのかもしれませんね。

振り返ってみると、ストーリーとしては割と単純な話になっているのですが(なんといっても「模倣」ですから)、かなり複雑な叙述というか、視点のとり方、読者に提示する順序を複雑にした語りになっているので、慎重に構想して出来上がった作品なんだなぁ、と感じました。
不満はあちこちありますが、これはデビュー作。これから、確かな構想力を発揮して、わくわくさせてくれる作品を発表してくれるのではないかと期待します。


<2015.8.22追記>
今月文庫化されていたので、書影を。

襲名犯 (講談社文庫)

襲名犯 (講談社文庫)

  • 作者: 竹吉 優輔
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/08/12
  • メディア: 文庫



nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0