偽りのスラッガー [日本の作家 ま行]
<裏表紙あらすじ>
かつてスター選手だった秋草隼は、膝の故障で現役を引退した。再手術し、人目を避けて寂れたバッティングセンターに通うものの、四年が経ち、選手としての夢は消えかけている。そんな秋草に旧知の球団GMから意外な話が持ちかけられた。ある大物選手に、ドーピング疑惑があるらしい。この疑惑の真相を突き止めるため、秋草に選手として内部から調査してもらいたいという。一度は断ったが、現役復帰への思いに抗えず、秋草はスパイを引き受けることに――。スポーツ界の闇と再起をかけた男の奮闘を描く野球ミステリーの傑作。
作者である水原秀策は、「サウスポー・キラー」 (宝島社文庫)で、第3回 『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューした作家です。
「サウスポー・キラー」 は好みにぴったり合いまして、その後文庫化された作品、
「黒と白の殺意」 (宝島社文庫)
「メディア・スターは最後に笑う」 (上) (下) (宝島社文庫)
「キング・メイカー」 (双葉文庫)
はすべて買っています。
「キング・メイカー」 だけ未読です。
語弊があるかもしれませんが、ミステリとして突出したところがあるという作風ではありません。
ただ、読み心地がすこぶる良い。人物像と語り口で読ませるタイプ、というところでしょうか?
この「偽りのスラッガー」 も期待して読みました。
今回も派手な仕掛けやトリックはありませんが、題材となっているドーピング疑惑の使い方には感心しました。
ドーピングをしていたか、いていなかったのか、結局のところ2パターンしかないわけですが、話をそっちへ持っていきますかぁ、なるほど、というところです。
そしてこの作品の場合は、なによりも野球をやる楽しさが感じられるのが長所だと思いました。
そもそも主人公が復帰するというのも野球をやりたい、という気持ちがあるからこそ、ですし、復帰後チームメイトに囲まれて、野球をやることの素晴らしさ、楽しさが溢れてくるのが伝わってきます。
大人の事情というのもありますから、必ずしもきれいごとでは済まされないし、ラストも正直不安を抱えたまま、というか、先の見えないままエンディングなのですが、それでもどこかさわやかな印象を受けるのは、野球をすることの素晴らしさ、喜びがきちんと書かれているからだと思います。
積読状態の「キング・メイカー」 も近いうちに読みたいです。
<おまけ>
しかし、主人公が復帰して調査するというストーリー、ハーラン・コーベンの「カムバック・ヒーロー」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を思い起こさせますね。
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