創薬探偵から祝福を [日本の作家 喜多喜久]
<裏表紙あらすじ>
病の原因を突き止め、命をつなぐ――創薬探偵。
創薬チーム、それは原因不明の難病奇病に苦しむ者の最後の望み。主治医からの依頼を受け、限られた時間内に病のメカニズムを解明、対応する新薬を創造して患者を助けるのが彼らの役割だ。調査担当の薬師寺千佳と化学合成の鬼才・遠藤宗史。ふたりは、数々の難題をクリアして得た成果で、ある女性を救おうとしているのだが――。化学×人間ドラマ。ミステリの新たな扉が開かれる。
この「創薬探偵から祝福を」 より先に、喜多喜久さんでは、「化学探偵Mr.キュリー2」 (中公文庫)を読んでいるのですが、引っ越しのあおりで本が箱詰めのままのため、先にこちらの感想を。
創薬探偵、とありますが、これは探偵ではありませんね。
日本国内の患者数が五万人を超えるかどうかが、「希少疾患」か否かの基準、とのことで、創薬探偵が相手にするのは、それレベルですらない、超希少疾患。世界で一人きりという患者さえ受け入れる。
URT(Ultra Rare-disease Treatment・超希少疾患特別治療)というのが、費用が全て患者の自己負担という前提で、公的な制度として認められている世界。
疾患の原因を突き止めて、治療薬を開発する。面白い設定ですよね。
第1話の疾患が、エボラ出血熱じゃないけど、エボラ出血熱みたいな症状って...いきなりすごい設定です。
このURTのやることを考えると、探偵、とつけたくなる気持ちもよくわかります。
ミステリー色はかなり薄いストーリー展開ですが、主人公たちのやっていることは、病気という対象を相手に、探偵と擬せられるのもむべなるかな。
ただ、まあ、専門的な部分は読者にはよくわかりませんし、詳しくも書いてありません。素人目には、難病奇病というわりには、ありとあっさり治療法が見つかるあたりも、あれ、あれ、というところですが、ここをあんまりこまごまと書かれては退屈極まりないでしょうし、これでいいのでしょうね。
主人公格の一人、遠藤の設定が、
「どんな複雑な物質であっても、遠藤は迷わずに合成ルートを選ぶことができる。」
「いちいちデータを見なくても、頭の中だけで完璧なルート構築ができるのである。」
となっているのにはニヤリ。どこかで読んだ設定だなぁ、と。
感心したのは、費用が全て患者の自己負担、ということは、お金に余裕がないと治療を受けられないわけで、不公平とかの批判も出てきそうな設定であるところ、きちんとそのあたりにも触れていることでしょうか(120ページあたりから)。
難しい問題ですから、クリアな回答が用意されているわけではありませんが、作者がきちんと制度のことを考えていることがわかってうれしくなります。
こういうところを疎かにしないことが作品世界の強度を支えるのだと思います。
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