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東京零年 [日本の作家 赤川次郎]

東京零年

東京零年

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/08/05
  • メディア: 単行本

<裏表紙側帯あらすじ>
殺されたはずの男が生きていた――。
電車のホームから落ちた生田目健司を救った永沢亜紀。
二人が出会ったとき、運命の歯車が大きく動き始める。

脳出血で倒れ介護施設に入所している永沢浩介が、TV番組に一瞬だけ映った男を見て発作を起こした。呼び出された娘の亜紀は、たどたどしく喋る父の口から衝撃の一言を聞く。「ゆあさ」――それは昔殺されたはずの男・湯浅道男のことだった。元検察官の父・重治が湯浅の死に関与していた事を知った健司は、真相を解明すべく亜紀とともに動き出す。時は遡り数年前、エリート検察官の重治、反権力ジャーナリストの浩介、その補佐を務める湯浅。圧倒的な権力を武器に時代から人を消した男と消された男がいた――。


今年5月に読んだ2冊目の本です。
単行本です。2015年8月に出た本なので、もうすぐ文庫化されるかもしれませんね。
2016年第50回吉川英治文学賞受賞作です。
「これは、自由の失われた近未来の話ですが、同時に若い人々に「あなたは未来を変えられる」と呼びかける希望の物語でもあります。」
という作者の言葉が表側表紙サイドの帯に書いてあります。

新書で出ることが多い赤川次郎の本ですが、今回は単行本というだけでなく、500ページもありまして、力が入っているな、と読む前から分かります。吉川英治文学賞も受賞していますしね。
長くて力が入っているとはいっても、いつもどおりの読みやすさはキープされていますし、監視社会、検察・警察等権力の横暴を描いているあたりも、三毛猫ホームズや花嫁シリーズのようなシリーズものではあまり例がなくても単発作品ではよく取り上げられているテーマですし、赤川次郎らしい作品に仕上がっていると思います。
とはいえ、それで受賞に値する出来栄えの作品か、と問われると答えに困ってしまうのが正直な感想です。

権力を用いて人を消す、というのが絶対にない、とは言いません。
人類の歴史をみればそういった例はいくつもあるのでしょう。日本でも戦前の特高などはそういう権力の例といえるかもしれません。
しかし、この「東京零年」で取り扱われているような事態は、今の世の中から見るとちょっと行き過ぎ感が強いんですよね。
吉川英治賞の受賞決定の会見で「近未来小説として書いたが、現実が追いついてしまった」と危機感を赤川次郎は述べたらしいですが、うーん、どうでしょうか。
特定秘密保護法や共謀罪、はてまたマイナンバー制度など、国家による国民の管理、統制と結びつけて言われること・事態が最近多くなっており、そういうことを念頭に置いた発言なのかもしれませんが、これもずいぶん先走った発言だなといった感があります。
監視社会や管理社会の恐怖を訴えかけ、かつ、若者に選択の重要性を訴える、というのであれば、こんな行き過ぎた事態を取り扱うのではなく、些細なことでもよいからもっともっと身近な事例で、息苦しい社会になってしまっているというのを感じさせるような手法のほうが効果的ではないかと思うのです。まだまだ大丈夫だと思っている間に事態はどんどん悪化し管理は強化されていってしまうんだとも言いたいのだろうと考えますが、ここまで極端と思える事案だと、「いくらなんでもこんなことにはならないよ」とか「まあ、絵空事だよな」という、作者の狙いとは逆の感想を持たれて終わってしまう可能性のほうが高いのではなかろうかと思うのです。

赤川次郎自身、昔はそういう感じで作品を組み立てていたと思います。
たとえば、「真夜中のための組曲」 (徳間文庫)に収録されている「危険な署名」なんか、短くても「東京零年」よりももっともっと監視社会の恐怖を感じることができました。(「危険な署名」も「東京零年」とは違った角度で極端な例と言えますが、「東京零年」と比べてまだまだ抑制が効いていると思います)

最近の赤川次郎は(といってもいつからかはっきり言えませんが)、この種のテーマを取り扱う場合、あからさまに書くことが多くなっているように思います。
わかりやすいこと、よく伝わることと、あからさまであることは同値ではありません。
久しぶりの力作だったのだとは思いますが、この点が非常に残念です。



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