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最後のトリック [日本の作家 深水黎一郎]

最後のトリック (河出文庫)

最後のトリック (河出文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/10/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「読者が犯人」というミステリー界最後の不可能トリックのアイディアを、二億円で買ってほしい──スランプ中の作家のもとに、香坂誠一なる人物から届いた謎の手紙。不信感を拭えない作家に男は、これは「命と引き換えにしても惜しくない」ほどのものなのだと切々と訴えるのだが……ラストに驚愕必至! この本を閉じたとき、読者のあなたは必ず「犯人は自分だ」と思うはず!?


本書は、深水黎一郎のデビュー作で第36回メフィスト賞受賞作である「ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !」 (講談社ノベルス)を、全面的に加筆・修正して改題・文庫化したものです。
あらすじにもありますし、講談社ノベルス版のタイトル(副題)からもわかるように、読者が犯人、というものを扱った作品です。
読者が犯人...魅力的ですよね。
実は講談社ノベルス版「ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !」も刊行時に読んでいるのですが、肝心要のトリックの肝を覚えていませんでして...よほど勢いよく読み飛ばしてしまったのか? 2014年の文庫化を機に読みなおそうかと購入、しばらく積読にしたのち、2015年12月に読んだもの、です。その後引っ越しのどさくさで本が紛れ感想を書けていませんでした。
しかし、読者が犯人、なんて奇天烈なトリックを覚えていないとは...…(為念ですが、読者が犯人、ということは覚えていたのですが、どういう仕掛けだったかを覚えていなかった、ということです)
過去にもいくつか作例があります、それは鮮明に覚えておりまして、トリックの成立具合については不満を持ったものです。
同じ不満は、深水黎一郎も抱いていらっしゃったようで、 河出文庫版「最後のトリック」の56ページからその点が触れられています。
「今さら言うまでもないことだが、ミステリーのトリックとは、厳密かつフェアでなければダメだ。仮に読者が犯人というトリックが可能だとしても、それがある特定の読者にだけ当て嵌まるのではダメで、その小説を読んだ読者全員が、読み終わって本を閉じたときに、『犯人は俺だ』と思うのではなくては、そのトリックが成立したことにはならない」(58ページ)
うわっ、ハードルを作者自らあげていますね。

はたして首尾は如何、というところですが、ぎりぎり成立していると言ってもいいかな、と感じました。
解説で島田荘司も「一読後、なるほどこれなら確かに自分が作中人物、香坂誠一を殺したと納得したし、このアイデアに前例はないと確信して、命題の達成に同意した」と書かれています。

ただし、やはり不満はあります。
若干ネタバレ気味になりますが、ぼかして書いちゃいます。
まあ今更ノックスの十戒やヴァン・ダインの探偵小説二十則なんて古証文を持ち出すこともないですが、常識的な範囲を超えた事象が出てくると、やはりねぇ...
超能力、とか、心理学、とか出してわんさかまぶしてくれてはいますが、非現実的なことがキーとなっちゃうと行き過ぎ感は否めませんね。
インチキだと思われる読者がいてもおかしくはありません。(この点の不満を強く感じたので、講談社ノベルス版を読んでいたのに枠組みを忘れちゃったのかな?)
あと、この仕掛けだと、置き去りにされる読者がいるのではないかと思います。時制の不一致?

で、結局トータルでこの作品「最後のトリック」はどうだったのか、と聞かれたら、再読の結果こう答えます。
「嫌いじゃないです。おもしろかったです。」

なによりも、曲がりなりにも「読者が犯人」という命題を成立させたところには素直に敬意を表したいと思えます。
そしてこの「最後のトリック」で「読者が犯人」を成し遂げるための道筋が、既往の「読者が犯人」を目指した先行作のアイデアを裏返したようなものだと言えるのでは、と気づいてから余計にそう思うようになりました。
先行作が世に出てからかなり経ちます。でも、だれもひっくり返して考えてみなかった。そこを深水黎一郎はやってみせてくれた。コロンブスの卵? こういう発想、ぜひとも支持しておきたいです!
不満はあるけどね。






タグ:深水黎一郎
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omachi

気分転換にご利用下さいませ。
WEB小説「北円堂の秘密」を知ってますか。
グーグルやスマホでヒットし、小一時間で読めます。
その1からラストまで無料です。
少し難解ですが歴史ミステリーとして面白いです。
北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。
読めば歴史探偵の気分を味わえます。
気が向いたらご一読下さいませ。
重複、既読ならご免なさい。
by omachi (2018-01-11 12:40) 

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