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フローテ公園の殺人 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フローテ公園の殺人 (創元推理文庫)

フローテ公園の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: フリーマン・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1975/09/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
当初鉄道事故と思われたアルバート・スミスの死は、委曲を尽くす捜査によって悪質な計画殺人の事相を呈し始めた。しかしファンダム警部も全容解明に至らず、舞台は南アフリカから一転スコットランドへ。消息を絶った婚約者に寄せるマリオンの真情ゆえか、事態は新たな局面を迎える。当地で捜査に当たるロス警部は、南アの事件と共通する特徴から同一犯の可能性を考慮するが……。


先日、カーの「髑髏城」 (創元推理文庫)の感想を書きましたので(ページへのリンクはこちら)、クロフツの感想も書いておこうと思いまして、2015年10月に読んだ「フローテ公園の殺人」 (創元推理文庫)を引っ張り出しました。
2014年の復刊フェアの1冊です。

↑の あらすじ、おもしろいですね。
突然出てくるマリオンって誰? 婚約者って? と思ってしまいます。
南アフリカでの事件で犯人と目され裁判にかれられたスチュアート・クローリイの婚約者であるマリオン・ホープですね。
はい、クラシックなロマンス(!) が出てきます。いいぞ、クロフツ。

創元推理文庫恒例で扉のあらすじも引用します。
南アフリカ連邦の鉄道トンネル内部で発見された男の死体。それは一見、何の奇もない事故死のようだったが、ファンダム警部の緻密な捜査により、事件は一転して凶悪犯罪の様相を帯びる。しかし、警部はそのとき自分が悪質なトリックを弄する犯人を相手にしているとは気づかなかった。やがて舞台は南アフリカからスコットランドへ移り、ロス警部が引き継いで犯人を追う。フレンチ警部の前身ともいうべき両警部の活躍を描く、クロフツ初期の代表作!

こちらの方が普通のあらすじですね。
ただ、こちらも少々問題がありまして、スコットランドでロス警部が引き継ぐ、とありますが、引き継いだわけではなく、南アフリカの事件、スコットランドの事件は別々に捜査されます。あとで結びつくというわけですので、不正確なあらすじになっていますね。

事件の構図は、南アフリカで事件が起き、その後2年以上経ってからスコットランドで事件関係者の間で新しい事件が起きる、というかたちです。
目次でも、第一部 南アフリカ、第二部 スコットランドとなっています。
したがって、読者にはつながりが簡単に見て取れることでも、それぞれの地で捜査するファンダム警部とロス警部にはつながりがわかりません。
真相がわかってからロス警部が振り返って、
「両者が非常に似通っていることに気がついたのです」
「同じように砂袋による凶行であるだけでなく、どちらの場合も奇禍に見せかけていますし、疑惑が生じた場合に備えて身代わりの犠牲者も用意しています」(362ページ)
と述べていますが、本当にそっくりです。
クロフツの特徴である地道な捜査が描かれますので、南アフリカ、スコットランド2地点で相似形の捜査が繰り返されてしまいます。
この繰り返し部分をどう考えるかでこの作品の評価は分かれると思います。
訳者もあとがきで
「けれども、なんといってもクロフツの特徴はその作品の現実性であろう。そして、その特徴が一番よく出ているのは『フローテ公園の殺人』であろう(その代わりに退屈な部分もある)。」
と述べているのは、このあたりを踏まえてのことかもしれません。
スコットランドの捜査が進むにつれて読者の眼にも事件の類似性がしっかりと浮かび上がってくる、というように組み立てられていたら、印象は変わったのではないかと感じます。

あとやっぱり、アリバイトリックがしょぼい...これはミステリとしては致命的かもしれませんねぇ。
それと、最後に意外な犯人の演出がなされていて好印象なんですが、うーん、どうでしょうか。現在のような科学的捜査はできなかったにしても、南アフリカの事件の段階できちんと捜査していればもっともっと早く警察は真相に到達できたんじゃなかったかな、と思えるのはいただけません。

とミステリ部分にケチをつけたものの、上でロマンスに触れましたが、クローリイとマリオンをはじめとする登場人物たちはお気に入りです。
のちの作品群ではクロフツ警部に統一される探偵役(ここではファンダム警部とロス警部)のキャラクターもいい人そうだし。
あまり喧伝されていませんが、ここもクロフツの魅力だと思いますし、それはこの「フローテ公園の殺人」でも十分に発揮されています。

<蛇足1>
この訳書、結構日本語がおもしろです。
「ぶっつかった」(13ページ)
「でっくわしています」(58ページ)、「でっくわした」(241ページ)、「でっくわそう」(277ページ)
今の感覚だと不要な撥音がかわいいです。
ちなみにこの本の初版は1975年9月。こういう発音、表記したんでしょうか?

<蛇足2>
「その手紙はクローリイの家の郵便箱に夕方までとどまっていて」(241ページ)というところがあります。
この手紙というのは「クローリイがマリオン・ホープ宛に転送した、サンディ・バカンの署名のある手紙」で、先ほど引用した部分のあとは、「結局、ヒル農場の雇人の一人が、投函するつもりで持って行った」と続きます。
郵便箱ってなんでしょうね?
文章から判断して、転送しようと思う手紙をそのままにしておくとは思えませんので、郵便受けとは違うように思えるんですが...

<蛇足3>
地図の記載をめぐって
「その赤い線が切れ目なしにひいてあった。たしかにその描き方は橋があることを暗示していて、渡し舟を示すような訂正はどこにもなかった」(276ページ)
と書いておいて、すぐ後に
「こんな地図じゃ、誰だって間違いまさあね。橋があるとはっきり描いてあるんだから」
というせりふが続きます。
「暗示」だと「はっきり描いてある」とはいえないんじゃないかと思うんですが...
「はっきり描いてある」というのは地の分ではなくて登場人物のせりふなので、誤りだと強くいうことはできないとは思いますが、不用意な書き方かなぁ、と思います。


原題:The Groote Park Murder
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1923年
訳者:橋本福夫








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