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ゼロと呼ばれた男 [日本の作家 な行]


ゼロと呼ばれた男 (集英社文庫)

ゼロと呼ばれた男 (集英社文庫)

  • 作者: 鳴海 章
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/05/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
米ソ冷戦時代。航空自衛隊パイロット那須野治朗は、米軍大佐バーンズから「お前はソ連機を撃墜できるか?」と問われる。陰謀をはらんだ沖縄上空での米軍機密演習。那須野が迎え撃つ相手とは。そして彼が零戦を表す「ジーク」という二つ名を得た15年前の出来事とは。四半世紀にわたり読み継がれた名作《ゼロ・シリーズ》第一巻、待望の復刊。今こそ、男を取り戻し、そのG(重力)を体感せよ。


6月に読んだ2冊目です。
鳴海章。
「ナイト・ダンサー」 (講談社文庫)で乱歩賞を受賞してデビューした作家で、最近は作風を広げておられるようですが、航空サスペンス、航空冒険小説の印象が強いです。
「ナイト・ダンサー」は謀略小説っぽいテイストもあって気になる作家ではありました。
ただ、冒険小説テイストが強いのなら、読む優先順位が低いかな、と個人的に思っていたのです。
集英社文庫が、鳴海章の出世作であるこのシリーズを復刊するというので、いいきっかけかなと思って購入。

主人公であるゼロとは、航空自衛隊の那須野治朗。
研修という名目で派遣されたイスラエルで実戦経験を持つ。その時の階級が二等空尉。
呼び名(通り名?)がジーク。
 「太平洋戦争中、米軍が日本の零式艦上戦闘機につけたコードネームが〈ジーク〉だった。那須野が日本人であること、また、治朗という名前が英語で『ゼロ』を発音するのに似ていること、戦闘機乗りであること--それでジークと呼ばれているのだ」(214ページ)、と那須野自身がイスラエル軍人ラビンに説明されます。

戦闘慣れしていない日本人が、ヒーローとして米軍その他に抜きんでることができるのか? という疑問にある程度応える設定になっています。
いいではないですか。

「操縦桿を握る右手には、ほとんど力をこめていない。操縦桿の“遊び”はほんの数ミリでしかない。わずかな動きでも動翼に変化を与え、期待が揺れる。操縦桿は握るというより、つまむという感覚に近い。」(17~18ページ)
というディテールを読むのも楽しいですし、那須野が派遣されるイスラエルについて
『「この基地だけじゃない。軍のあらゆる図書室には戦記本は一冊もない。わが国を見て歩いてくれ。いたるところに戦没者の記念碑がある。そして国民はほとんど実戦を経験しているんだよ。恐怖でも栄光でも、他人の書いた戦争の何を知れというのだ? 十分だよ。十分すぎるんだ」
 那須野は口を閉ざしたまま、ラビンを見返していた。この国全体が前線なのだ。前線で戦記本を広げている兵士がいるわけがない。』(77ページ)
なんてドキッとする説明がなされるのもいいです。

「飛行機が兵器として使用されるようになってから、生き残ることができるファイターパイロットの類型は決まっていた。人一倍遠くを見通すことのできる視力、重力に逆らって思い戦闘機を振り回すことができる腕力、空間識別能力、常に一〇〇マイル先を予見するカンの良さ--だが、もっとも求められる資質は、殺し屋であること。
 戦闘機乗りが常に教えられる生き残り方はただ一つだ。先に敵機を撃墜せよ。なぜか消極的戦法は教えられないし、教えられても身につかない。だから、那須野にはなぜ撃ったのか、答えようがない。
 なぜ呼吸をするのか、なぜ歩くのか、なぜ生きているのか--そう訊かれるのと同じことだった。
 那須野は呼吸をするように敵機を標準装置に捉え、そして歩くのと同じくらい自然に撃った。そこに言葉は存在しない。」(247ページ)
長々と引用してしまいましたが、こういうドライなのも大好きです。

謀略小説的な色彩を帯びながらも、割とストレートな物語になっているのも、好印象。
すっきりと楽しめました。
ただ、いかんせん短い。
270ページもありません。もっとたっぷりページを与えていれば、と思わないでもありません。
ともあれ、シリーズになっていますので、続けて読んでいきたいと思っています。



<蛇足1>
「空中では、太陽を背にしたり、敵機の後方や下方にある死角から忍び寄って攻撃するのだ。」(15ページ)
やめよう、やめようと思っても、気になってしまうんですよね。「~たり、~たり」となっていないと。

<蛇足2>
「飛行隊の建物を出た那須野は、それからの三時間、小池とともに離陸準備に追われた。米軍との合同訓練を行うために下限高度、天候、攻撃方法などについて細かいブリーフィングが行われた。
 ようやく自分たちの乗機にたどり着き、点検をはじめたのが離陸一時間前。」(130ページ)
点検が、離陸準備のカウントに含まれるのかどうかによって、三時間なのか合計四時間なのか変わってきますが、三時間にせよ、四時間にせよ、そんなに準備が必要なのですね......
 緊急事態となったときに対応できるのかな、と素人目に疑問を持ちました。
 もっとも、これは米軍との合同訓練という設定ですから、時間をかけたということなのでしょう。

<蛇足3>
「那須野の父親は、予科練の生き残りだった。二年間の基礎訓練と厳しい実習の後、いよいよ前線に配属される日が昭和二十年八月十五日とされていた。(155ページ)」
終戦直前まで、きちんと訓練や実習ができたのですね。
勝手な想像で、戦端を開いたころはともかく、戦争末期ともなれば慢性の兵力不足で、ちょっと訓練すればすぐに実戦に駆り出されていたのでは、と思っていました。



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