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空白の叫び [日本の作家 な行]


空白の叫び 上 (文春文庫)

空白の叫び 上 (文春文庫)

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 文庫
空白の叫び 中 (文春文庫)

空白の叫び 中 (文春文庫)

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 文庫
空白の叫び 下 (文春文庫)

空白の叫び 下 (文春文庫)

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
退屈な日常の中で飼いならしえぬ瘴気を溜め続ける久藤。恵まれた頭脳と容姿を持ちながら、生きる現実感が乏しい葛城。複雑な家庭環境ゆえ、孤独な日々を送る神原。世間への違和感を抱える三人の少年たちは、どこへ向かうのか。少年犯罪をテーマに中学生たちの心の軌跡を描き切った衝撃のミステリー長編。<上巻>
それぞれの理由で、殺人を犯した三人は少年院で邂逅を果たす。しかし、人殺しのレッテルを貼られた彼らにとって、そこは想像を絶する地獄であった……。苛烈ないじめを受ける久藤は、混乱の中で自らを律し続ける葛城の精神性に強い興味を持つ。やがて、少年院を出て社会復帰を遂げた三人には、さらなる地獄が待ち受けていた。<中巻>
社会復帰後も失意の中にいた久藤は、友人水嶋の提案で、銀行強盗を計画し、神原と葛城にも協力を依頼する。三人は、神原の提案で少年院時代の知り合いである米山と黒沢にも協力を依頼する。三人の迷える魂の彷徨の果てにあるものとは? ミステリーで社会に一石を投じる著者の真骨頂と言える金字塔的傑作。<下巻>


貫井徳郎の本を読むのも久しぶりです。
2014年1月に読んだ「ミハスの落日」(感想ページはこちら)以来ですね。
だいたい刊行順に読みたいという変な癖を持っているので、上中下三巻にもなるこの
「空白の叫び」 (文春文庫)は少々手を出しづらかったということもあります。
思い切って2022年5月に手を出したのですが、かなり集中して読みました。一気読みに近い。
ミステリ色は控えめなのですが、十分面白かったです。

上巻で、主要登場人物である三人の中学生が殺人に至るまでを描いています。
家庭生活、学校生活がしっかり描かれます。
興味深いのは久藤と葛城の二人は三人称で描かれるのに対し、神原のパートは一人称「ぼく」で綴られることです。
読んでいて、一人称「ぼく」で語られる神原のパートにいちばん不穏なものを感じました。
久藤のパートで、早々にキーワード「瘴気」が出てきます。
上巻51ページに初めて出てきた後、かなり頻繁に登場する単語となります。
三人の中では、葛城のエピソードに最もひきつけられました。

中巻では舞台は少年院に移り、三人が巡りあいます。
少年院あるいは刑務所での生活というのは、ミステリではわりとよく見かけるシーンですね。本書もその流れを受け継いだものとなっています。
久藤が、葛城や神原のことを考え、想像しているシーンが多くあり、かなり考えさせられます。
「葛城は一見優等生ふうで、いかにも頭がよい生徒といった見かけだが、裡に何かを秘めているのが久藤には感じられた。葛城の中には“飢え”がある。何不自由ない環境の中で育ったと話には聞くが、だからこそ葛城は飢えているのだ。」(中巻155ページ)
注目は
「辛いのは、感情があるからだ。感情がなくなれば、辛いとも寂しいとも思わないよ」
「植物になりたいよな。何があっても動じない、植物になりたいよ」(中巻153ページ)
という葛城の(神原に告げた)セリフですね。
少年院の暮らしの中で葛城は苦境に陥り、それを見た久藤がこう想像します。
「葛城は自らを捨てたかったのかもしれない。葛城が捨てたい自分とはなんだったのか、大して言葉を交わしたわけでもない久藤にはわからない。わかるのはただ、葛城が望みどおり己を捨て去り空白になったということだけだ。空白の人間に、屈辱感などないだろう。」(中巻238ページ)

下巻では、少年院からでても救われない久藤が、一発逆転、銀行強盗をしようとします。
葛城と神原を巻き込んで。
この銀行強盗のアイデアが素晴らしい。
読んだ方は、この手があったか、と驚かれると思います。
銀行強盗というのは成功するのが極めて難しい犯罪だと思われるのですが、非常に鮮やかな手口と言ってよいと思います。
物語は、三人以外のものを引き入れてしまったことで、(いろいろな意味での)破滅を迎えます。
神原のパートは最後まで一人称です。
「人を殺し、その代償として弱肉強食の世界に放り出されたぼくたちは、おとなしい山羊たちを食らうことになんの躊躇も覚えない。弱い者を踏みつけていかない限り、ぼくたちに生きる道はないのだ。恨むとしたらぼくたちではなく、自分の弱さを恨むがいい。」(下巻315ページ)
という独白の恐ろしいこと。
三者三様のエンディングを迎えますが、やはり葛城が印象に残っています。
「もはや葛城は空白ではなかった。果たさなければならない義務を負った者の前には、進むべき一本の道が拓けている。」(下巻440ページ)
すっきりしないラストはあまり好みではないのですが、それでも十二分にいい作品だと思いました。

貫井徳郎の作品は面白い。


タグ:貫井徳郎
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