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モルフェウスの領域 [日本の作家 海堂尊]


モルフェウスの領域 (角川文庫)

モルフェウスの領域 (角川文庫)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
桜宮市に新設された未来医学探究センター。日比野涼子はこの施設で、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年の生命維持業務を担当している。少年・佐々木アツシは両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために5年間の“凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が発生することに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する。人間の尊厳と倫理を問う、最先端医療ミステリー!


<この投稿は、2023年8月13日に一旦間違えて編集途中で出してしまったものを編集中ステータスに戻した後、完記して再投稿しているものです>

読了本落穂ひろいです。
2018年2月に読んだようです。
海堂尊の「モルフェウスの領域」 (角川文庫)

最先端医療(?) と呼んでいいのでしょうか?
生体の冷凍保存(コールドスリープ)と治療を施すための施設が桜宮市にある設定です。
東京じゃないんだな、と思いましたが、こういうあり方の方がよいのかもしれませんね、なんでもかんでも東京、東京というのではなく。

タイトルのモルフェウスというのは「眠りを司る神」(10ページ)と書かれています。一般には夢の神、ということのようです。
コールドスリープで眠っている少年アツシのことを指しています。網膜芽種(レティノブラストーマ)に罹っているという設定です。

コールドスリープというのは、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」 (ハヤカワ文庫SF)(感想ページはこちら)もそうですが、SFでよく見る設定ですね。
この「モルフェウスの領域」では、特殊疾病に対し治療法が確立されるまでの間、疾病の進行を遅らせる目的で人口的に冬眠するという設定になっています。
海堂尊らしいのは、それに際し「凍眠八則(モルフェウス・プリンシパル)」というのが設定されていること。

コールドスリープに関する問題を、モルフェウス・プリンシパルで整理したうえで、更なる問題点を指摘し物語の駆動力とする、というわけで、モルフェウス・プリンシパル自体が海堂尊によるものなので、マッチポンプというか、自作自演ぶりが際立ちますが、もともとミステリなんて作者の自作自演を楽しむものですから、そこをあげつらうのはお門違いということでしょう。

本来難しい問題をわかりやすく整理し、癖のある登場人物たちを操りながら(あまりにも自己中心的な官僚をやりこめて溜飲を下げさせながら)、少年の行く末にハラハラドキドキできるよう物語を仕立てていることが最大の長所だと思います。

海堂尊の作品には奇矯な登場人物がわんさか登場しますが、この作品でいちばん目をひくのは、コールド・スリープのシステムを作り上げたエンジニアの西野昌孝という登場人物。
「僕は他人の幸福には興味はない。だからといって他人が不幸になることを望んでもいない。どうせシステムを作るなら、適正に稼働させたい。これはエンジニアの本能です。それを良心などという、綿菓子みたいな言葉で飾り立てたくないだけだ」(111ページ)
と言うセリフに彼のキャラクターの片鱗が特徴的に窺えると思います。
でも、いちばん変わっているのは、アツシの守り神である日比野涼子かもしれません。
アツシと涼子の将来が気になっています。

<蛇足>
「キーボードを叩き、ふたつの単語を大きなフォントで画面に映す。スリーパーとリーパー(死神)。
『ほら、並べて見ればよくわかる。スリーパーの中には、リーパーが身を潜めている』」(134ページ)
この部分、日本語を前提とした駄洒落ですね。英語だと sleeper と reaper ですから。


<2023.8.21追記>
書き忘れたことを思い出したので。
コールドスリープに、あるアイデアを絡ませてあって面白かったです。
そのアイデア自体の有効性は実証されていなかったのではないかと思うのですが、素人的にはありそうですし、そのことでコールドスリープの価値を作品世界内で高める役目を果たしているからです。
また、そのアイデアに関連することを冒頭から大胆に配しているのもポイント高いな、と。
こういうの好きです。

タグ:海堂尊
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