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マクダフ医師のまちがった葬式 [海外の作家 か行]


マクダフ医師のまちがった葬式 (ペニーフット・ホテル) (創元推理文庫)

マクダフ医師のまちがった葬式 (ペニーフット・ホテル) (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/05/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ペニーフット・ホテルは大忙しだった。メイドのガーティの結婚式に、女主人のセシリーが披露宴を企画していたのだ。そんなさなかマクダフ医師の葬儀でとんでもない事件が発生。柩のなかには医師ではなく見知らぬ若い男の死体があったのだ。さらに秘密のはずのホテルの献立表がそばにあったことがわかり、セシリーは堅物の支配人バクスターの制止を振りきり、犯人捜しに乗り出す。


2023年10月に読んだ9冊目の本です。
ケイト・キングズバリー「マクダフ医師のまちがった葬式」 (ペニーフット・ホテル) (創元推理文庫)
とても読みやすくてびっくりしました。こんなにスラスラ読めるとは。

「ペニーフット・ホテル受難の日」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
「バジャーズ・エンドの奇妙な死体」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第3弾。

前作のあらすじで、舞台となるペニーフット・ホテルが「紳士淑女御用達の隠れ家」と書いてあって、えっ!?、密会の宿([コピーライト]佐野洋)だったの!? と感想で驚きを書いたのですが、この「マクダフ医師のまちがった葬式」 で謎が解けました。密会の宿ではありません。

「これまでのところ警部は、カードルームの利用客の身分を考慮し、うちの地下室での強盗とはいえない活動に目をつぶってきた。でももっともな口実、法的根拠さえあれば、彼は躊躇なくここを閉鎖するでしょう。」(138ページ)
「セシリーは、どの部屋を誰が利用したかという記録をつけていない。正式な記録がないことにより、諸般の理由から通常は賭博に手を出せない数多の名のある貴族たちも、安心してこの遊びに興じることができるわけだ。
 たいてい、ギャンブラーたちは夜、ロンドンからやってきて、カードルームでひと晩過ごし、ほとんど誰にも気づかれぬまま、朝一番に帰っていく。」(183ページ)

地下の部屋を限られた上客に貸し、そこでは小規模の賭博が行われていた、ということですね。なるほど。
この事実が、事件の進展と絡みあってくる展開がいいなと思いました。

事件も派手です。
なにしろ、マクダフ医師の柩のなかに別人の死体が入っていた、というのですから。
その柩に、本来秘密にしているはずの、ペニーフット・ホテルの食事のメニューがあったことから、やむなく(?)、セシリーは捜査に乗り出すことに。
もちろん、支配人バクスターの制止&セシリーの無視、つきです(笑)。

ミステリーとしての仕掛けはさほどではなく、セシリーがどたばたと謎を解いていくのに、無理やり巻き込まれていくバクスターが本当に気の毒。しかし、今回、バクスターはいつもにも増して、ひどい役回りを演じさせられていてかわいそうです(まあ、読者としてはそこが面白いんですけどね)。
「急なことで、これくらいしか思いつかなかったのよ」「心配しないで、バックス。きっとうまくいくわ。わたしを信じて」(270ページ)
と言われて、読者ともども不安の底に陥れられてしまいますね。

こんな杜撰な捜査方法でも解けるように事件が組み立てられているということで、ある意味立派ですね。
ミステリとしては甘くても、死体を入れ替えた理由とか説得力あるように思えました。

シリーズとしては、ホテルの従業員であるメイドのガーディが結婚を迎え、その準備にてんやわんやですし、もう一人のメイドであるエセルにも何やら恋の兆し。シェフのミシェルの意外な顔にもご注目。
かと思えば、マクダフ医師の後任までのつなぎとしてバジャーズ・エンドにやってきた医師プレストウィックがいわゆるいい男で、セシリーとのやりとりに読者がハラハラ。
バクスターもハラハラ(笑)。

シリーズ読者としてはバクスターを応援したいのですが、なかなかねー。
身分違いの恋というのか、どうも1900年代初頭の規範意識の強さが邪魔ですね。

「僭越ながら敢えて言わせていただきますが」「なれなれしさは蔑みにつながります。規律をゆるめれば、たちまち堕落が始まるのです」(94ページ)
「従業員には、自分たちに何が求められているか理解するためにルールが必要なのです、マダム。われわれは、彼らが務めを怠り、上の者に生意気な態度をとり、好き放題に振る舞うのを許すわけにはまいりません」(95ページ)
「人はそれぞれの地位に応じた作法に慣れてくるものです。お辞儀は敬意を表すものであり、その人間の立場を思い出させる働きがあるのです。そのどこがいけないのか、わたしにっはわかりかねます」(95ページ)

時代が変わりつつある気配を漂わせてはいるものの、こんなことをいうバクスターだけに余計に。

一方のセシリーは亡き夫のことを今も思い続けているのに、プレストウィック登場に心揺れたりして。
「彼女の心はジェイムズのものであり、この先もずっとそうなのだ。他の男性が入りこむ余地はない。そのことをしっかり頭に入れておこう。」(109ページ)
なんて自分で言い聞かせなければならないというのが問題ですね。
それに! バクスターの存在は、セシリーの心のどこに!!!!

5冊目まで邦訳されているようですので(購入済みです)、ゆっくり読んでいきます。
ミステリとしてはゆるゆるですが、雰囲気が楽しいので、もっと先まで訳してほしいんですけどね。




原題:Service for Two
著者:Kate Kingsbury
刊行:1994年
訳者:務台夏子







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